サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

メイショウベルーガ

【2010年 日経新春杯】男勝りの成長力を誇ったパワフルな女傑

 3歳1月のデビュー戦(京都の芝1600mを12着)以来、タフに走り続けて全35戦を消化したメイショウベルーガ。重賞2勝を含む7勝という偉大な足跡を残したが、6歳時の天皇賞・秋(競走中止)で右前脚の繋靭帯を不全断裂するというアクシデントに見舞われなければ、さらに戦績を積み重ねたに違いない。

 フレンチデピュティの産駒らしく、初勝利をダート(京都の1200m)で挙げたメイショウベルーガ。ただし、母パパゴ(フランスで1勝、重賞2着1回)はサドラーズウェルズの肌であり、重厚なターフランナーの血が流れている。

 矢車草特別で2勝目。牝馬離れしたパワーやスタミナも持ち味であり、不良馬場のかもめ島特別を快勝する。だが、追い込み一手の脚質だけに、展開に泣くことが多かった。

 フローラS4着、ローズS5着など、重賞でも好走歴がありながら、4歳夏の弥彦特別で13か月ぶりの勝利をつかむまでに11連敗。しかし、そこからの充実は著しく、昇級戦となった西宮Sも3着。古都Sでは順当に準オープンを卒業する。

「馬格があるのに手脚は軽く、もともと調教駆けした。かかることもないし、乗りやすい。ただ、気が強く、頑固な一面もあってね。嫌なことははっきり拒み、ハミを付けるのにもひと苦労なんだ。それでも、ようやくすべきことを理解。かつては競馬場へ行った途端、一気にテンションが上がったのに、無駄なところでの消耗が少なくなった。チークピーシーズを着用させた効果もあって集中力が高まり、一戦ごとに反応が鋭くなったよ」
 と、持ち乗りで手がけた古小路重男調教助手は同馬ならではの魅力を話してくれる。99年2月までジョッキーとして活躍した古小路さん。平地で76勝(うち重賞を3勝)、障害レース90勝(重賞8勝)を上げた。名手に深い愛情を注がれ、みごと変貌を遂げたのだ。

「時間をかけて教えてきただけに、進歩を実感できるのがうれしかった。いつも食欲が旺盛で、穴を掘ってしまいそうな勢いの前がきで催促する。飼い葉桶をなめるように平らげるんだ。あれだけ使い込んでも、体重が増加。よりハードに鍛えることができたね」

 エリザベス女王杯でも、33秒3の上がりで5着に食い込んだ。愛知杯はクビ+クビ差の3着。そして、5歳シーズンは日経新春杯よりスタートを切る。

 自分のリズムに徹して後方を追走。4コーナー手前でゴーサインを送ったときは反応がひと息に見えたものの、エンジンがかかってからの伸びは圧巻だった。大外に持ち出し、豪快な差し切りが決まる。強力牡馬たちを一気に3馬身も突き放した。会心のパフォーマンスに、池添謙一騎手は晴れやかな笑顔を浮かべる。

「この舞台での重賞初勝利は立派。直線の脚が違い、あっさり交わせた。最後はソラを使い、ふわふわしていたくらい。ますます馬は力を付けているし、今年は大きなところを狙えるよ」

 阪神大賞典(3着)もクビ+ハナ差の惜敗。果敢に天皇賞・春(4角で不利を受けて10着)や宝塚記念(6着)にも挑んだ。新潟記念(4着)をコンマ1秒差に健闘。京都大賞典でのパフォーマンスも忘れられない。長くトップスピードが持続する特徴をフルに発揮し、手応え以上の渋太さで後続を振り切った。

 結局、これが最後の勝利になったとはいえ、エリザベス女王杯はスノーフェアリーの2着。ジャパンC(6着)、有馬記念(12着)に参戦したうえ、翌春の京都記念もトゥザグローリーの2着に食い下がる。

 鍛えて強くなるというより、持って生まれた才能で走るのが牝馬であるが、メイショウベルーガは男勝りの成長力を示した稀有な個性派だった。

 競走能力喪失との診断ではあったが、幸い繁殖入りに支障はなく、メイショウテンシャ(3勝)、メイショウテンゲン(弥生賞など2勝、ダイヤモンドS2着)、メイショウミモザ(阪神牝馬Sなど5勝)と次々に活躍馬を輩出。さらなる逸材の登場が期待されたが、2021年、病気のために急逝した。さらなる血の発展を祈っている。