サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

メイショウサムソン

【2007年 天皇賞・春】伝統の長距離で発揮された重厚なスピード

 ヨーロッパで豪華に展開するサドラーズウェルズの系譜。ただし、その重厚さゆえ、決して日本の軽い芝向きとはいえなかった。だが、唯一、G1ウイナーを誕生させたのがオペラハウス。一時代を築いたテイエムオペラオーに続き、2006年のクラシック戦線ではメイショウサムソンが皐月賞、ダービーを制している。

 メイショウサムソンの母マイヴィヴィアンは未勝利に終わったが、ダンシングブレーヴの肌。イギリスに残した数少な産駒よりコマンダーインチーフ、ホワイトマズルなどを送り出し、本国でもエリモシック、キョウエイマーチ、キングヘイロー、テイエムオーシャンらが活躍した大舞台向きの血脈である。

 若駒時代から健康的でタフ。2歳7月、小倉(芝1800mを2着)でデビューし、3戦目の同条件を勝ち上がった。続く野路菊Sも連勝。萩S(4着)、東京スポーツ杯2歳S(2着)と順調に使われ、中京2歳Sではレコード勝ちを収める。だが、好位で粘り強く戦うレーススタイルだけに、地味なイメージが付きまとった。

 年明けはきざらぎ賞から始動して2着。スプリングSを競り勝ったものの、皐月賞は6番人気に甘んじた。それでも、屈強な心身は大舞台でこそ輝く。安定した取り口であっさりと2冠を奪取したのだ。

 決め手勝負に課題を残し、秋シーズンは未勝利だったが、神戸新聞杯(2着)、菊花賞(4着)、ジャパンC(6着)、有馬記念(5着)と崩れずに健闘した。瀬戸口勉調教師の引退に伴い、高橋成忠厩舎へ転厩したうえで大阪杯へ。道中はぴたりと折り合い、危なげなく抜け出す。さらなる成長がうかがえるパフォーマンスといえた。

 天皇賞・春でも、石橋守騎手(現調教師)は同馬らしさを貫く。馬なりで中団を進み、2週目の3コーナーでは早くも外から押し上げる。直線手前で先頭へ。ゴール前ではエリモエクスパイア(ハナ差の2着)、トウカイトリック(3着)らが迫ってきたが、馬体を併せて差し返す渋太さを発揮した。堂々たる勝利に、殊勲のジョッキーは安堵の笑顔を浮かべる。

「菊花賞での敗戦以来、高速馬場や長丁場への適性を疑問視されていたので、なんとしてもここで結果を出したかった。厳しいレースだったけど、最後は力でねじ伏せてくれたね。持ち味を存分に生かせたと思う」

 宝塚記念(2着)を経て、フランスへと渡る準備を進めていたなか、立ちはだかったのは馬インフルエンザ。同馬にも感染が認められ、国内に照準を定め直す。天皇賞・秋は鬱憤を晴らすかのような2馬身半差の圧勝。以降は勝ち切れなかったとはいえ、ジャパンC(アタマ+クビ差の3着)、天皇賞・春(アタマ差の2着)、宝塚記念(アタマ差の2着)と、名勝負を演じた。

 5歳時は凱旋門賞(10着)へも挑戦。同行した高橋義忠調教師(当時は調教助手)は、航空機マニアらしく、こう思い出を話す。

「その前年、美浦で検疫期間を過ごしていたとき、偶然、上空にエールフランスのカーゴを発見したんです。そう、まさに自分たちが乗る予定だった便。そんな悔しさも味わい、ようやくかなった遠征だっただけに、いろいろ気を遣ったし、みんなで知恵を絞りましたね。苦い敗戦ではありましたが、あの馬が教えてくれたことは貴重な財産。また日本を代表する馬を育て、ぜひ再び世界を目指したいですよ」

 種牡馬となり、ルミナスウォリアー(函館記念)、デンコウアンジュ(アルテミスS、福島牝馬S、愛知杯)キンショーユキヒメ(福島牝馬S)、フロンテアクイーン(中山牝馬S)らを輩出。2021年シーズンで供用を終え、24年11月、天国へと旅立った。それでも、パワーとスピードを兼備した遺伝子は、母父となっても存在感を示し続けるに違いない。