サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

メイショウトウコン

【2007年 エルムステークス】さらなる高みへ、闘魂を込めて

 長きに亘って砂戦線に異彩を放ったメイショウトウコン。ブライアンズタイムの後継らしく、芝、ダートを問わずに活躍馬を送ったマヤノトップガンが父である。母ルナースフィア(その父ジェイドロバリー)は不出走だが、同馬の半兄がローレルロイス(4勝、阪神ジャンプS2着、京都ジャンプS2着)。祖母ルナオーキッドの兄姉にはダイナコスモス(皐月賞、ラジオたんぱ賞)、ワーキングガール(クラフトマンシップやクラフトワークの母)がいる。

 安田伊佐夫厩舎の調教助手だった当時、パートナーを務めた松下武士調教師は、こう懐かしそうに振り返る。
「忘れられない一頭。あと一歩でGⅠに手が届かなかったとはいえ、想像以上の奥深さに感心させられました。可能性を決め付けてはいけないと教えられましたね」

 ダートで未勝利を勝ち上がったマヤノトップガンとは対照的に、ターフでデビュー。スマートなスタイルだったうえ、力の要る坂路やウッドコースでの動きは目立たなかった。12番人気の低評価を覆し、2歳12月の中京(芝1800m)を3着に健闘したが、もともとスピードの乗りが遅かった。早めに進出すると気を抜く弱点にも泣かされ、なかなか初勝利はつかめない。3歳の10月、13戦目となった札幌の芝2000mで、なんとかクビ差だけ押し切りを決めた。

 昇級後は5連敗。ところが、翌夏の札幌でダート1700mを試したところ、想像をはるかに超えた適性を示す。後方から驚きの瞬発力を駆使し、6馬身差の圧勝を演じたのだ。大雪ハンデキャップでも殿一気に伸び、半馬身差の2着。アカシヤ特別で1000万下も順当に突破する。花園Sを連勝。あっという間にオープンに登り詰めてしまった。

 外傷によって間隔が開き、追い切りでもバッタリ止まったことから、平安Sは単勝18・7倍の9番人気。しかし、実戦では持ち前の闘魂を燃やす。直線で大外に持ち出し、強烈な決め手が炸裂。ゴール前できっちりと抜け出した。フェブラリーS(9着)、アンタレスS(3着)と期待に反したものの、東海Sで2つ目のタイトルを奪取する。

 馬インフルエンザが発生し、予定していたブリーダーズGCを除外される不運に見舞われたものの、影響はまったくなかった。目標をエルムSに切り替える。前半はいつもの後方待機策を貫いたが、3コーナーから外をひとまくり。芝並みの瞬発力を発揮した。あっさり突き抜け、後続に3馬身半の差。初めてコンビを組んだ池添謙一騎手は、こう声を弾ませる。

「今回はピンチヒッター。武幸四郎騎手(ケガで休養中)からも、自信を持って乗れと伝えられました。行くのがちょっと早いかなと思ったけれど、あまりに手応えが良くて。特にラストの伸び(3ハロン34秒5)は抜群でした。58キロの斤量を背負っても、まったく問題なし。いよいよ充実してきましたね。すばらしい馬に乗せていただき、こちらも自信を与えられました」

 自分の戦法を貫き、JCダート(4着)、東京大賞典(3着)でも見せ場をつくった。6歳シーズンも、平安S(2着)より始動。鬼門のフェブラリーSは8着だったが、圧倒的な支持に応え、名古屋大賞典を勝ち切る。ブリーダーズGCにも優勝。トップクラスを相手に、JBCクラシック(3着)、JCダート(2着)と、堂々と食い下がる。以降は不発に終わるケースが増えたとはいえ、7歳時の名古屋グランプリ(4着)まで懸命に戦った。

 パワー優先のダート界にあって、忘れられない個性派。いまでも強烈なインパクトを伴って、怒涛の末脚が蘇ってくる。