サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

メイケイペガスター

【2013年 共同通信杯】天賦の翼を広げて勇躍する若きペガサス

 セレクトセール(1歳)にて3000万円で購買されたメイケイペガスター。長年に渡って様々なカテゴリーに一流馬を送り出したフジキセキが父である。母ストームホイッスル(その父ブライアンズタイム)は未勝利に終わったが、祖母がカナダの2歳牝馬チャンピオンとなったラークホイッスル。同馬の叔母父にペニーホイッスル(フェアリーS2着)、モエレソーブラッズ(兵庫ジュニアグランプリ)がいる。同馬の半弟ドラゴンストームも2勝をマークした。

「最初から候補に入っていたわけでなく、セリの当日、目にとまった。2000mくらいまでこなせるタイプを探していたなか、父というよりもサンデーサイレンス系の柔らかさが伝わってきてね。あれ以上の価格になったら断念していたところで、落札できて本当に幸運。社台ファームでの育成時は、いつ行ってもイメージどおりに成長している。8月に手元に来た直後でも、これはエンジンが違うと思わせたよ」
 と、木原一良調教師は若駒当時の思い出を話す。

 9月の阪神(芝1600m)でデビューすると、いきなりラスト33秒0の鋭い末脚が炸裂。鮮やかに馬群を割った。デイリー杯2歳Sでも断然の1番人気に推される。ところが、向正面で激しく行きたがり、11着まで後退してしまった。

「レースを経験したら、スイッチの入り方ががらりと変わってしまった。ジョッキーのゴーグルに蹴り上げられた小石がこつんと当たっただけで、敏感に察知してしまうくらい」

 ソエに配慮し、3か月半の休養を挟む。肉体的には一段とたくましさを増した。調教では反抗的な態度など見せず、他馬の後ろに付ける練習を繰り返しても難なくクリア。後方で脚をためた若駒S(3着)は、ゴール前で窮屈になりながらも鋭く脚を伸ばした。

「負けたとはいえ、納得できる内容。まずは我慢させるのがテーマだったし、次の重賞制覇にもつながったんだから」

 共同通信杯での鮮やかなパフォーマンスが忘れられない。スタートで寄られる不利があっても冷静さを保ち、2番手をのびのびと追走。あっさり後続を振り切った。

「ゲートを出てみないとわからない状況でも、やっと出会えたG1級の原石。ポテンシャルの高さは疑いようがなかった。こんなチャンスはもう巡ってこないと思えたし、なんとか輝かせたかったね。こちらは満足いく態勢が整うよう、集中するまで。ただし、以降も反応が良すぎる面は、もろ刃の剣となった」

 若葉Sは8着。最初のコーナーでハミをきつく噛み、馬込みを避けて落ち着かせようとしてもコントロールできなかった。離れた最後方に控えた皐月賞を9着。向正面で一気に進出しながら、ダービー(11着)も馬群に沈む。

 半年ぶりのキャピタルSはクビ+クビ差の3着に健闘したものの、精神面にもろさを抱えたままだった。成績は激しく上下動。馬なりでハナを切れた5歳時のBSイレブン賞を快勝したのが、最後の勲章となった。中京記念(16着)で骨折を発症。翌年のオアシスS(10着)を走り終え、引退が決まった。

 中京競馬場の乗馬となる予定だったが、去勢手術を施された矢先、転倒して重傷を負う。若々しい馬体を誇ったまま、この世を去った。悲運に付きまとわれた短い一生。それでも、多くのファンの目には、天賦の翼を広げ、スターの座を勝ち取った勇姿が焼き付いている。