サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ツルマルレオン
【2013年 北九州記念】スプリントで開花した父譲りの爆発力
有馬記念やドバイシーマクラシックを制したハーツクライ。種牡馬としても大成功したが、アドマイヤラクティ(コーフィールドC)をはじめ、6頭の重賞ウイナーが誕生したファーストクロップにあって、ツルマルレオンは父も管理した橋口弘次郎調教師のもとで才能を開花させている。
「当歳で出会ったときから脚が短くて幅があり、丸々としたスタイル。迫力満点だった。ハーツからこんな仔が出るなんて。どこから眺めてもまったく似ていない。唯一、大きくて澄んだ瞳だけはそっくりだけど」
と、橋口師は若駒当時を振り返る。
母はアメリカ生まれのカストリア(その父キングマンボ、祖母のモアシルヴァーが英米で2勝)であり、同馬はミスタープロスペクター系のスピードを色濃く受け継いでいた。同馬の半弟にあたるシュウジ(小倉2歳S、阪神Cなど5勝)もスプリンターである。
新冠のキタジョファームで順調に乗り込まれ、2歳6月、宇治田原優駿ステーブルへ。8月半ばの入厩後もスムーズに態勢が整った。
「常に活気があり、疲れを見せない。飼い葉を平らげるのが驚くほど早くてね。筋肉質だけに、ダートも良さそうに思えるほどだったが、フットワーク自体は柔らかい。デビュー前からスケールの大きさが伝わってきたよ。ただ、まだ体を持て余していたし、動きはそう目立たなかった。初戦は芝1800m(10月の京都、3着)を選択。使って味があり、稽古での反応が変わってきたのは2戦目(京都の芝1600mを3着)あたりからだった」
さらに1ハロン距離を縮め、京都で2着した後、12月の阪神(芝1400m)を勝ち上がる。それまでの好位から粘るイメージを一新する鋭い差し切りだった。
「普段は素直なのに、即座にスイッチが入って燃えすぎるほどに。シンザン記念(7着)はかかったのが敗因だった。マイルは長いと確信したね」
3歳春、いよいよ快進撃が始まった。3月の阪神で1200mを試すと、直線一気に3馬身差の快勝。橘Sも、後方から次元の違う脚を繰り出して連勝する。葵Sでは8着に敗れたものの、直線で前が壁になった結果だった。ところが、CBC賞(8着)で右ヒザを剥離骨折する不運が。7か月半、レースから遠ざかる。
「故障の程度としては軽かったし、社台ホースクリニックで手術を行い、きちんとケアされた。成長を促す契機となり、一段とトモが大きくなったよ」
大外を追い上げ、シルクロードSを4着。勝ち馬のロードカナロアに並ぶ33秒6の上がりを駆使している。ただし、心身ともに粗削り。オーシャンS(6着)や高松宮記念(13着)ではスムーズさを欠き、不完全燃焼に終わった。
クラス再編成後、皆生特別に順当勝ち。飛騨S(2着)、北九州記念(10着)を経て、北九州短距離Sでは晴れてオープンに返り咲く。依然としてポジション取りや折り合いに課題を残しながらも、オパールS(5着)、京洛S(4着)と崩れなかった。
オーシャンSを3着し、5歳シーズンは上々のスタート。レースの上がりを1秒1も凌ぐ豪脚(3ハロン34秒3)を駆使した。だが、高松宮記念(13着)で鼻出血を発症。体調を整え直して臨んだバーデンバーデンCも8着。勝負どころで寄られる致命的な不利を受けた。
ようやくエンジン全開となったのが北九州記念。すっとスタートできたうえ、同馬には好都合なハイペースとなった。中団より後ろの位置でも、終始、手応えには余裕があった。4コーナーで促し、外へ持ち出すと、持ち前の末脚が炸裂。鮮やかに突き抜け、念願の初重賞制覇を成し遂げた。
「これまでの鬱憤を晴らせ、ほっとした。でも、喜びはつかの間だったね。右前脚に屈腱炎を発症。秘めたポテンシャルはスリープレスナイト(スプリンターズS)と同等のレベルだと信じていただけに、残念でならなかったなぁ」
翌年の北九州記念で復帰したものの、一戦のみでリタイア。乗馬に転身した。それでも、ターフに響き渡ったレオン(ラテン語でライオン)の雄叫びは、小倉に夏が訪れるたび、エコーとなって蘇ってくる。