サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ナイスミーチュー

【2012年 シリウスステークス】ナイスな巡り会いに乾杯

 初勝利はデビュー5戦目となった阪神のダート1800mだったが、その後にターフを17戦消化したナイスミーチュー。3歳6月の京都(芝2000m)では500万下を卒業したものの、あと一歩で勝ち切れなかった。

 数々の名馬を育てた橋口弘次郎調教師にとっても、忘れられない一頭。こう感慨深げに思い出を振り返る。
「もともと期待が大きな馬だったからね。ラジオNIKKEI賞(4着)だって1馬身くらいしか負けていない。芝での出世を想像していたよ。長年、馬と向き合っていても、どこに転機があるのか、なかなかわからないもの。人生と同じだね。ひとつのことに固執していたら、チャンスを逃がすこともある。改めて、それを痛感させられたなぁ」

 アパパネ、ルーラーシップ、ロードカナロア、ホッコータルマエ、ラブリーデイ、ドゥラメンテ、レイデオロをはじめ、様々なカテゴリーに一流馬を輩出したキングカメハメハの産駒。母ローザロバータ(その父ファイアメイカー)はアメリカで重賞2勝を含む8勝をマークしている。同馬の半兄にスプリングSに勝ったフライングアップル(3勝)ら。セレクトセール(当歳)にて1億800万円で落札された。

 きっかけをつかんだのが5歳の2月。芝の適鞍が組まれていないタイミングだったことから、京都のダート1800mを試す。あっさり3勝目をマークした。

「芝では引っかかったりして、レース運びが不安定だったが、スムーズに追走。見違えるような決め手を発揮してくれた。正直、驚いたし、まだ半信半疑ではあったけど、あれで進むべき路線が決まったよ」

 昇級2戦目となる4月の阪神(ダート1800m)では1000万条件を突破。続く上賀茂Sも4着でまとめ、4か月間のリフレッシュを挟む。

「休養効果はかなり。トモに筋肉が乗り、ぐんとパワーアップした。常に活気にあふれている一方、いざとなって頼りなかった気持ちもしっかりしてきたんだ。差すスタイルは変わらなくても、集中力が高まり、いいポジションで流れに乗れるようになった」

 いよいよ晩生の血が騒ぎ出す。宮崎Sは3馬身差の快勝。さらにシリウスSでは初のタイトルを奪取した。前を行くライバルを射程に入れ、持ったままで直線へ。外に進路を切り替えると、一気の逆転劇が始まる。鮮やかに突き抜け、橋口師に84勝目(JRAのみ)となる重賞の勲章をプレゼントしたのだ。

「初のタイトルがダート変更になった京都牝馬特別(カルストンダンサー)だったのに、この路線とはあまり縁がなく、ユートピア(ゴドルフィンマイル、南部杯2回など重賞6勝)以来。貴重な勝利だっただけに、喜びは格別だった」

 長めの距離で持ち味が生き、6歳時には仁川Sに優勝する。平安SやシリウスSでも僅差の2着。改めて実力をアピールした。

 ハイライトは7歳になって臨んだマーキュリーC。レコードタイムでの決着となったなか、力強い差し切りを決める。だが、反動も大きく、左前に浅屈腱炎を発症。ノーザンホースパークで乗馬となった。

 まさにナイスな巡り会いだったと、ベテランも微笑むナイスミーチュー。名門の歴史に、新たな活力を吹き込む実力派だった。