サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

アメリカズカップ

【2017年 きさらぎ賞】長き航海を乗り切った気丈なセイルボート

 セレクトセール(当歳)にて4900万円で落札されたアメリカズカップ。長距離G1を3勝した底力を産駒に伝え、様々なカテゴリーに逸材を送っているマンハッタンカフェが父である。母ベガスナイト(その父コロナドズクエスト)はマイル以下で3勝。母の半姉にG1・デルマーオークスの覇者となったノーマターホワットがいる。関東オークスを2着したオメガインベガスは同馬の半姉。半弟のキングオブドラゴン(現4勝、日経新春杯)もオーブンで活躍している。

「依頼を受けた1歳時もバランスが整い、キビキビした身のこなし。育成先の社台ファームでも順調に乗り進められた。5月末に入厩した当初でも、小柄ながら前向きに動け、自信を持ってレースへ送り出せたよ」
 と、音無秀孝調教師は若駒当時を振り返る。ヨットレースの最高峰であり、スポーツ競技で最古の国際大会の名が付けられたように、もともと大きな夢を託されていた。

 2番手より抜け出し、中京の芝1600mで新馬勝ち。秋緒戦の野路菊Sもきっちり差し切り、確かな能力をアピールする。ところが、朝日杯FSは、きつくハミを噛んで9着に後退した。
「いざとなったらテンションが上がり、折り合いに難しさを増してきた。負担をかけすぎないような調整に努めても、飼い食いは細く、なかなかふっくらしたスタイルにならなくて」

 それでも、道悪適性は断然だった。きさらぎ賞は3番手を絶好の手応えで追走。あっさりと抜け出し、後続を完封する。

「段階を踏みながら、根気強くレースを教えていきたいと思っていたが、荒れた馬場でもノメらず、すっとスピードに乗れる強みを生かせたよ。あんなかたちに持ち込めたら、馬の行く気を邪魔せずに済み、最後まで伸び脚が持続する。もちろん、雨が降ったら大歓迎だが、スムーズにポジションを取れれば、良でもやれると見ていたんだ。それなのに、皐月賞(18着)やダービー(17着)はリラックスして最初のコーナーへ入れず、早めに消耗してしまって。ワンターンのコース形態、のびのび走れる外目の枠など、いろいろ条件が整わないと走れない。輸送で体を減らすから、移動時間が短い京都がベストだしね。夏場にリフレッシュを挟んでも、復帰戦のポートアイランドS(10着)が春と同じ体重。課題が多いぶんも、伸びる可能性を見込んでいたんだけど」

 そんななか、得手に帆を揚げるチャンスが到来。カシオペアSはベストの条件が揃う。不良馬場を味方に楽々と抜け出し、後続に3馬身半も差を広げた。

 しかし、マイルCS(16着)以降は荒波にもまれる。洛陽S(4着)、アンドロメダS(3着)、函館記念(5着)、小倉記念(4着)、関門橋S(5着)などで見せ場をつくりながら、7歳時の関越S(16着)まで31連敗を喫した。障害に転じ、3戦連続して2着したものの、結局、復活の勝利をつかめず、現役を退いた。

 乗馬となり、静かに余生を過ごしているアメリカズカップ。いつ一変しても不思議ない魅力的な個性派だった。末長く幸せにと願わずにいられない。