サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

レッドリヴェール

【2013年 札幌2歳ステークス】夢見る乙女が発揮した驚きの勝負根性

 須貝尚介厩舎が送り出した傑作といえば、ゴールドシップ(皐月賞、菊花賞、有馬記念、宝塚記念2回、天皇賞・春)の名が真っ先に挙がるが、同じステイゴールド産駒にして、牝でもG1を勝ち取った逸材がいる。レッドリヴェールのことだ。

 母ディソサード(その父ディキシーランドバンド)はアメリカで2勝をマークした。コンスタントに勝ち上がるファミリーであり、同馬の兄姉にサードニックス(3勝)、サンクスアロット(3勝)ら。東京サラブレッドクラブにて総額1600万円で募集された。

「初めて見た1歳時より、整ったシルエットにうっとりさせられた。ただ、とてもデリケート。父の血が悪いほうへ向かないよう、精神面をうまく導けるかどうかがポイントと見ていたね」
 と、トレーナーは若駒当時を振り返る。

 社台ファームから山元トレセンへ移って体力強化が図られ、5月には栗東へ。大切にペースアップされたのにもかかわらず、馬なりでも反応は抜群だった。予定を早め、この世代で最初の新馬(阪神の芝1600m)に向かった。

 道中はリラックスさせることに専念。スローからの瞬発力比べとなったが、次位をコンマ3秒上回るラスト33秒3の末脚を駆使し、きっちり差し切りを決めた。

「将来に自信を深めることができたうえ、レースを嫌にならないよう、最高のスタートが切れた。飼い食いも細く、成長途上の段階だけに、いったん放牧を挟むのも青写真どおりだったよ」

 輸送での消耗を避けるべく、新潟2歳Sではなく、滞在で臨める札幌2歳Sに照準を定める。しっかり英気を養い、函館競馬場に入厩した。

「当初は環境の変化に戸惑い、かなりテンションが高かった。なかなか馬場に入ろうとしなくて。それでも、十分な準備期間を取ったことで、徐々に慣れてくれたね。仕上げに手間取らないタイプだから、あとは息を整えるだけで十分。実質2本の追い切りでも、満足いく態勢を整えられた」

 過酷な不良馬場で行われた札幌2歳S。出遅れる不利も跳ね除け、力強く差し切った。

「軽さが持ち味だけに、かわいそうな条件。どうなることかと心配していたよ。大した女の子。体幹がしっかりしていて、走りのバランスがいいから、難なくこなしてしまった」

 再度のリフレッシュを経て、阪神JFへ。中団で折り合いを付け、直線勝負に出る。鋭く迫るハープスターの強襲をハナ差凌いだところがゴール。3戦目にして2歳女王に輝いた。

「当日輸送に体重を減らしても、ますます中身が充実。数字以上に大きく見せていた。センスの良さは天性のもの。かかることもなくゴーサインを待てる。それに、なんといっても勝負根性が半端じゃないんだ」

 間隔を開けても全力を尽くせる特長を踏まえ、桜花賞へ直行。ここも2強対決となり、クビ差の2着に踏み止まった。次の目標はダービー(12着)。後方から外々を回り、不安全燃焼に終わったとはいえ、オークスをパスしたのも、破格の才能を見込んでのことだった。

 しかし、4歳時のヴィクトリアマイル(4着)、クイーンS(2着)などで実力を垣間見せながら、テンションの高さや馬体の維持に課題を残し、結局、以降は勝利をつかめなかった。5歳夏にクイーンS(2着)、札幌記念(左前に腱鞘炎を発症して16着)と歩んだところで繁殖入りが決定した。

 スマートなボディーにたくさんの希望が詰め込まれていたリヴェール(フランス語で夢見る人)。託された夢が大きかったぶん、古馬になってからの戦績に物足りなさを感じるとはいえ、きっと天才的な遺伝子は次世代へと受け継がれ、また鮮やかな花を咲かせるに違いない。