サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
レッドファルクス
【2017年 京王杯スプリングカップ】磨かれるごとに切れを増す強靭な刀剣
2歳11月の東京(芝1400mを2着)でターフに初登場したレッドファルクス。続く未勝利(中山の芝1600m)は出遅れたうえ、終始、外に逃げる若さが響いて9着に終わったが、しっかり立て直されて臨んだ3月の中京(芝1400m)を快勝。大切に使われながら、力を付けていく。
母ベルモット(その父サンデーサイレンス)は3勝をマーク。同馬の半兄にレッドシュナイト(4勝)がいる。東京サラブレッドクラブの募集総額は1600万円だったが、レガシーオブゼルダ(京成杯3歳S)、サイレントハピネス(4歳牝馬特別、ローズS)、スティンガー(阪神3歳牝馬Sなど重賞を5勝)が叔母父に名を連ねるファミリーであり、大成して不思議のない魅力を秘めていた。
父はエンドスウィープの後継であり、アーバンストリート(シルクロードS)、パドトロワ(アイビスサマーダッシュ、キーンランドC、函館スプリントS)など快速タイプを量産したスウェプトオーヴァーボード。オメガパフューム(東京大賞典、帝王賞など)を筆頭にダートでの成功例も多い。
昇級3戦目にして、東京のダート1400mを勝ち切る。西湖特別(3着)を経て、鳴海特別で3勝目を手にした。それでも、尾関知人調教師は「芝での可能性も見限れない」と断言し続けていた。
雲雀S(4着)では準オープン突破にメドを立て、トリトンSを大外一気に差し切った。再びダートに目を向け、テレビ静岡賞に連勝。オーロC(8着)や根岸S(10着)は振るわなかったものの、夢見月S(2着)。コーラルS(4着)と善戦し、欅Sでオープン勝ちを果たした。
CBC賞に臨むと、ついに重賞制覇を成し遂げる。ファルクス(古代ローマの刀剣、ラテン語で鎌の意味)との名の通り、ターフのスプリント重賞でも鋭い末脚を発揮。高速決着にも対応でき、早くもG1のタイトルが視界に入ってきた。
好スタートが決まったスプリンターズS。先行集団を目標にして脚をため、直線は外目から豪快に差し切る。これが右回りコースでは初の勝利。ただし、芝1200mでは無傷のまま、頂点を極めたことになる。
「前半は遅れがちな面や中山コースなど、いろいろ不安はあったけど、外枠を引け、ずっとスムーズ。ラストはすごい脚だった。この馬では3戦3勝。未勝利を勝ったときにも跨ったけど、ここまで強くなるんて」
と、ミルコ・デムーロ騎手も驚きの表情を浮かべた。
暮れには香港スプリント(12着)に挑戦。ただし、同馬が完成されたのは6歳シーズンを迎えてから。高松宮記念は3着に敗れたものの、京王杯SCにて3つのタイトル奪取がかなう。58キロを背負ったうえ、直線で前が壁になりながら、狭いスペースを割って圧倒的な決め手を駆使する。貫禄の違いを見せ付けた。
「馬が成長して、ずいぶん落ち着きが出てきた。前走も重い馬場で頑張っていたし、きょうも芝のコンディションは良くなかったけど、とても賢い馬なので、問題なくこなしてくれた。まだまだ充実する途上にある。あと1ハロン距離が延びても対応できると思う」(デムーロ騎手)
ジョッキーの感触通り、安田記念でもクビ差+クビ差の3着に追い込む。そして、史上3頭目となる連覇を狙って、スプリンターズSへ。前年より後ろのポジションとなり、外へ持ち出すのに手間取りながらも、きっちりと抜け出してゴール。内を回った馬が2着から4着を占めるなか、破壊力の違いを見せ付ける。尾関トレーナーは、感慨深げに喜びを語った。
「4か月ぶりで、若干、重めになるかと想像していたのに、体重は前回と同じ。馬は競馬をよくわかっています。いい感触で送り出せ、なによりでした。位置取りに関しては心配して見守っていましたし、直線に向いても、これは届かないかなと。でも、G1ウイナーに登り詰めたうえ、この間にもいろいろ経験したことが実を結びましたね。
昨年の最優秀スプリンターになれなかったのは残念。高松宮記念を勝てなかった悔しさもあり、ここに全力投球しました。今度はぜひとも勝ちたかった。スタッフのがんばり、牧場のケア、ジョッキーのすばらしい騎乗があって、念願がかないました。去年のこのレースで涙は大方、出ましたので平静でいられますが、うれしいのひと言です」
みごと同年のJRA賞最優秀短距離馬に輝いたレッドファルクス。しかし、以降は張り詰めた心身を維持できず、阪急杯を3着しながらも、7歳の阪神C(8着)まで6連敗。種牡馬入りが決定した。
いまのところ大物を送り出せていないが、史上3頭目となるスプリンターズS連覇を達成した魅力的な遺伝子。いずれ抜群の瞬発力を受け継いだ逸材が登場すると信じている。