サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

レッツゴードンキ

【2015年 桜花賞】壮大な夢を追う情熱の女王

 引退レースとなった7歳時の阪神Cでも、4着まで脚を伸ばしたレッツゴードンキ。36戦を消化して、手にした勝利は3つのみに終わったが、常にトップクラスと渡り合い、23戦で掲示板を確保している。

 2年連続してチャンピオンサイアーに輝き、ディープインパクトの登場後も安定して2位の座をキープしたキングカメハメハが父。母マルトク(そのマーベラスサンデー)は梅田康雄厩舎で走り、ダートを5勝した。子息の智之師にとっても、馴染みの母系である。同馬の叔母にあたるクィーンマルトク(3勝)やスーパーマルトク(3勝)は短距離で活躍している。

「1歳秋に出会ったころは、この仔もスピードタイプだろうと見ていました。小国ステーブルでの育成時も、早くから動けましたよ」
 昨年7月、札幌競馬場に入厩すると、本馬場で鋭い末脚を披露。長めの条件に対応できる柔軟性も秘めていた。1か月後には芝1800mの新馬を3馬身差で突き抜ける。

「まだ脚元も固まらず、ひ弱さが目立つ段階ながら、もともと絶対能力が抜けていて、いきなり勝てる手応えがありました。力が要る洋芝やダートもこなせる血筋。馬場に関してはオールマイティーです。中1週で臨んだ札幌2歳Sを3着し、改めて非凡な性能に自信を深めた一方、出遅れたうえ、行きたがってしまった。普段は大人しいのに、1回使ったことでスイッチが入り、一生懸命になりすぎるのが課題となったんです」

 栗東へ移って丁寧に調整を積み、一段と体力がアップする。馬群をさばくのに手間取り、アルテミスSはわずかハナ差の2着。ゴール寸前でショウナンアデラの強襲に屈したとはいえ、阪神JFでも半馬身差の2着に食い下がる。トライアビット(リングビットに似た形状ながら当たりも柔らかい)を着用した効果が表れ、レース運びに安定味を増してきた。

 吉澤ステーブルWESTでのリフレッシュを経て、チューリップ賞へ。早めにハナを奪い、3着に粘った。この経験が大舞台で生きることとなる。
 好スタートを決め、押し出されて先頭に立った桜花賞。スローペースに落とし、持ったままで脚をためられた。ラスト2ハロン目で追い出されると、瞬時に加速。4馬身も後続を突き放し、栄光のゴールに飛び込んだ。

「夢だったクラシックの喜びを運んでくれ、信じられない思い。ただし、ますます調教の反応が上向き、成長は明らかでしたね。瞬発力に富むディープインパクト産駒が待ち受けていても、長く伸びが持続するのが持ち味。脚の使いどころさえ噛み合えば、チャンスがあると見ていました」

 自らを伝説の騎士と思い込んだ「ドン・キホーテ」とは違い、入念に練られた戦略でリアルなレースを勝ち抜き、競馬史にその名を刻んだレッツゴードンキ。だが、オークスは距離の壁に泣き、10着に終わる。

「ゲートで待たされ、平常心を失ってしまった。あれですっかりリズムが狂いましたね。スムーズに折り合えず、不完全燃焼が続きました」

 秋シーズン以降は11連敗を喫した。それでも、函館スプリントS(3着)、キーンライドS(3着)、JBCレディスクラシック(2着)、ターコイズS(2着)と健闘して、さらなる充実を示していた。「レッツゴー」とエールを送るトレーナーの願いが通じ、5歳時の京都牝馬Sではエンジン全開。ついに2つ目のタイトルに手が届いた。

「なかなか勝ち切れないもどかしさもありましたが、とても強靭。その都度、しっかり仕上げられ、自信の持てる状態でレースへ送り出せました。こんな牝馬は滅多にいません。懸命な姿に、こちらが励まされたくらいです」

 以降も高松宮記念(2着)、スプリンターズS(2着)、スワンS(3着)など、中身が濃いキャリアを重ねていく。6歳にして、高松宮記念をハナ差の2着。ラストイヤーも、阪急杯で2着した。

 惜しまれつつターフを去っても、まだまだ夢は壮大に展開していく。初仔のミスガリレオアスクは1勝のみに終わったが、アスクヴォルテージ(牡、3歳未勝利)、父エピファネイアの牝(2歳)、父コントレイルの牝(1歳)らに注目が集まる。いずれ母譲りの情熱を受け継いだスターホースが登場するに違いない。