サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

レッドアリオン

【2015年 マイラーズカップ】高速ターフに羽ばたく勇敢な天馬

 内国産として51年ぶりとなるリーディングサイアーを獲得し、一時代を築いたアグネスタキオン。そのラストクロップであり、父に最後となる重賞の栄光をプレゼントしたのがレッドアリオンだった。母エリモピクシー(その父ダンシングブレーヴ)は7勝をマーク。重賞での3着が3回もある。その全姉にエリザベス女王杯を制したエリモシック(4勝)もいて、底力に富む一族だ。

 数々の名馬を育てた橋口弘次郎調教師も、出会った瞬間より大きな夢を託していた。
「母系への思い入れはたっぷり。リディル(デイリー杯2歳S、スワンS)、クラレント(デイリー杯2歳Sなど重賞を6勝)の下だからね。体型もよく似ていて、1歳で依頼を受けた当時より、非凡な瞬発力を見込んでいた」

 吉澤ステーブルで体力強化が図られ、2歳7月に栗東へ。順調に態勢が整い、9月の阪神、芝1400m(2着)でデビューした。だが、惜敗が続き、勝ち上がったのは5走目となった阪神(芝1600m)だった。
「じれったかったなぁ。兄たちと比べ、やんちゃなんだ。気性の激しさが付きまとい、なかなか集中してくれなかった」

 そんななかでも、シンザン記念(5着)、アーリントンC(3着)と善戦。フローラルウォーク賞を順当に突破し、ニュージーランドTも2着する。出遅れ、最後方のポジションとなったNHKマイルC(4着)では、メンバー中で最速の上がり(3ハロン33秒6)を駆使している。

 3歳秋の3走は期待を裏切ったものの、リゲルSでハナ差の2着に前進。ニューイヤーSを力強く突き抜け、2馬身差の快勝を収める。
 ただし、4歳シーズンは、降級した西宮Sで勝利を加えたのみだった。マイラーズC(4着)や富士S(3着)で見せ場をつくりながら、着順は上下動。イン追走が裏目に出て、マイルCSは14着。リゲルS(8着)も、不良馬場に戦意喪失した。

「精神面が若いぶん、伸びる可能性はたっぷり残されていた。最大の課題はゲートだったが、ようやく枠内で落ち着けるようになった。2番手でも折り合え、洛陽Sはいい勝ち方。体も一段と良化してきたよ」

 待望の重賞初制覇を成し遂げたのがマイラーズC。前が止まらない開幕週の高速ターフにもきちんと対応し、好位から鮮やかに差し切る。前走に続いて続けて手綱を託された川須栄彦騎手は、「人気(単勝22・4倍)はなくても、自信を持って臨めました。スタッフの努力が実り、ずいぶんレース運びが上手に。いいタイミングで乗せてもらい、感謝するしかありません」と声を弾ませた。

 窮屈な最内でもまれ、やる気が途切れてしまった安田記念(8着)。大外を回したのが裏目に出て、中京記念も8着だった。それでも、先頭との差はコンマ3秒。2戦続けて消化不良に終わり、陣営は関屋記念での反撃に並々らぬ闘志を燃やしていた。軽く気合いを付け、マイペースに持ち込む。スピード優先のターフを味方に付け、悠々とゴールに飛び込んだ。

 しかし、一気に全力を出し切ったことで、以降は精神的なダメージを抱えたまま。自らやめてしまうようになり、無念の13連敗を喫する。7歳時の高松宮記念(17着)がラストラン。乗馬に転身した。

 輝きを放った時期は短かったとはいえ、アリオン(ギリシャ神話に登場する天馬)との名にふさわしい才能を示した同馬。スピード馬場に翼を広げ、高く飛び立った姿が忘れられない。