サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ローブデコルテ
【2007年 オークス】純白のドレスをまとった樫の女王
ウオッカ、ダイワスカーレットが登場したレベルが高い世代にあって、オークスを制したのがローブデコルテ。外国産としては初のクラシック制覇だった。
父はコジーン。アドマイヤコジーン、エイシンバーリンをはじめ、日本の軽い芝でも強さを発揮する遺伝子である。母カラーオブゴールド(その父シーキングザゴールド)は不出走だが、その半姉にブラダマンテ(スティルインラブの母)らがいる優秀な一族。祖母のスレマイフが芝8ハロンの米G3・スワニーリヴァーHに勝っている。
スピードが強調された配合ながら、「当初からイメージ以上の強靭さがあった」と、松元茂樹厩舎に所属当時に調教パートナーを務めた青木健二調教助手は話す。
「もともと完成度が高く、デビュー戦(2歳8月の函館)は負ける気がしなかったなぁ。1800mを使ったのは、ゲートを促さないと出なかったから。折り合いも楽に付くからね。驚いたのは、2戦目のコスモス賞。体が立派すぎたのに、ぐんぐん追い込んできた。あの一戦で、これはかなり奥深いって感じたよ」
明らかに苦しい位置取りにもかかわらず、レコードで駆けたナムラマースの2着。豊富なスタミナを証明する一戦だった。
11月の京都(芝1600m)も2着に終わったが、阪神JFに挑むと後方待機から脚を伸ばし、4着に健闘する。年明けに紅梅Sを差し切り、狙い通りクラシック路線に乗った。
「チューリップ賞(5着)は、女の子用の仕上げ。本番ではとても太刀打ちできないと痛感させられたね。桜花賞(メンバー中で最速の上がりを駆使しながら4着)へは、びっしり乗り込んだ。ハードに追っても、次の日に跨った感触は、まだ物足りない。ぎりぎりまで攻めて、闘争心を馬に押し込めたんだ。もちろん、それでめげちゃう馬もいるから、賭けでもあったけど、すんなり乗り越えてくれたよ。ジョッキー(福永祐一騎手)には、今度は馬が軽くなっているって伝えたし、実際に返し馬で、絶対、最後は切れる脚を使うと直感したらしい。上がってきて、第一声は『出遅れてしまった。オークス、オークス。次は自信を持って乗る』って」
完全に同馬向きの仕上げ方を手の内に入れたうえ、桜花賞の敗戦を糧にして臨んだ2冠目。ゲート練習も入念に積んだ。芦毛の馬体に張りを増し、気合い乗りも抜群だった。
互角のスタートから下げて中団の内で脚をためる。直線では1番人気に推されたベッラレイアが早めに抜け出した。一方のローブデコルテはラスト300mあたりで前が詰まり、追い出しが遅れる。いったんは勝負ありかと思われたが態勢を立て直してから末脚が爆発。外から鋭く強襲し、馬体が並んだところがゴール。わずかハナ差だけ捕えていた。タイムは2分26秒1。レースレコードが17年ぶりに塗り替えられた。
さらなる高みを目指し、生まれ故郷に渡ってアメリカンオークス(5着)へ挑戦。だが、スタートが決まらず、レース中に鼻出血を発症。秋はローズSより再スタートを切る予定だったが、馬インフルエンザ発生による移動制限が敷かれた影響で、帰厩が大幅に遅れた。直接、秋華賞に挑んだのだが、見せ場もなく10着に沈む。
「フィジカル的に文句なくても、以降は神経質な面が目立ち始めた。いろいろメニューに工夫をこらしても、なかなか前向きな精神状態に戻らなかった」
阪急杯(3着)などで見せ場をつくったとはいえ、女王らしからぬ走りが続く。4歳時の府中牝馬S(10着)がラストランとなった。
母になっても大きな期待がかけられたのだが、出産時に膀胱破裂という重篤なアクシデントに見舞われ、まだ10歳の若さにして天国に旅立った。わずか2頭の産駒しか残せなかったが、貴重な後継繁殖ととなるスイートメドゥーサはエクロール(2勝)など、エレーデがマハナ(現1勝)らを送り出し、後世へと血をつなげている。ファミリーの繁栄を願いたい。