サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ロードカナロア
【2013年 高松宮記念】世界へ、そして未来へと放つ神々しい輝き
ラストランとなった香港スプリントでは、後続に5馬身差を付けるワンサイド勝ちを演じたロードカナロア。2013年度の「ワールドベストレースホースランキング(WBRR)」は128ポンドの評価。これは短距離部門において、日本馬が獲得した歴代最高のレーティングである。文句なしでJRA賞の最優秀短距離馬に選出されるとともに、堂々の年度代表馬に輝いた。
様々なカテゴリーに一流馬を送り出したキングカメハメハが父。コンスタントに勝ち上がるうえ、豊富な成長力にも富む。母レディブラッサム(その父ストームキャット)は、短距離で5勝をマークした。祖母のサラトガデューがダート9ハロンのG1(ベルダムSやガゼルH)の勝ち馬。ロードサラブレッドオーナーズにて総額2625万円で募集された。
ケイアイファームでの育成を経て、2歳の9月に栗東へ移動。調教パートナーを務めた安田景一朗調教助手は、こう若駒当時を振り返る。
「明らかに緩さが残り、ダクでは身のこなしがぎこちない。ただ、速いところへいけばフォームがぶれません。引っ張り切りでも、体感以上のタイムが出てしまう。とても利口な馬で、調教ではスイッチが入らず、こちらのちょっとした動きに合わせながら、徐々にスピードアップしてくれますしね。ものが違うと思わせました」
12月の小倉(芝1200m)で迎えたデビュー戦は、馬なりで逃げ切り。後続は6馬身もちぎられた。ジュニアCはゴール前で集中力が途切れて2着。続く京都(芝1400m)も2着に惜敗したが、当時はソエを気にする素振りもあった。2か月半のリフレッシュを経て、ドラセナ賞、葵Sと一気の連勝を飾る。
「その後に半年間、我慢して成長を促した効果があり、心身ともにたくましくなりました。バランス的にはトモに弱さが感じられ、手前を替えたときに外へもたれる面なども残っていましたが、筋力アップとともに解消に向いましたね」
京洛Sではスローな流れにもスムーズに対応。ラスト32秒7の鋭さで快勝する。京阪杯も楽々と通過し、初のタイトルを手にした。連勝はシルクロードSまで継続。折り合い重視で中団に控え、レースの上がりをコンマ6秒上回る33秒6の脚で、あっという間に2馬身半の差を付ける。
初めて臨んだG1が高松宮記念。ここでは同ステーブルの先輩にあたるカレンチャンが貫録を示し、秋春の頂上決戦を連覇。だが、同馬もコンマ1秒差の3着に食い下がり、いずれ追い付き、追い越せそうな予感を抱かせた。
「スピードの絶対値で5連勝。あの当時でもびゅんびゅん飛ばしがちな傾向にありました。4歳夏は函館スプリントS(2着)、セントウルS(2着)と惜敗したわけですが、ジョッキーが丁寧に教え込んでくれ、だんだん相手に合わせて控えることを覚えてきた。学習能力も優秀なんです。普段はどっしり構え、上手にオン・オフが切り替わるように。当初から稽古は動いたにしても、肉体的な進歩も著しかった。ぐっと厚みが出て、終いの伸びに迫力を増しましたよ」
スプリンターズSでは、いったん先頭に立ったカレンチャンを目がけ、鋭い決め手が炸裂。きっちり差し切った。タイムは1分6秒7のレコード。勢いに乗って香港スプリントに向かい、世界の強豪も撃破する。
遠征のダメージは皆無。凱旋レースとなった阪急杯も危なげのない内容。あせらずに追い出しを待ち、ラスト1ハロンできっちりと前を捕らえた。香港時よりプラス8キロの余裕がある体付き。使われた上積も大きかった。
2度目の高松宮記念は、ワールドクラスの実績に恥じない強さを発揮。スタートは一息だったが、中団で流れに乗り、手応え十分に直線へ。ダイナミックに加速すると、あっさり突き抜けた。
「まだ底知れないものを感じる。本当に完成されるのは秋以降じゃないかな」
と、岩田康誠騎手は冷静に話した。その予言通り、ここも壮大に展開していく伝説の一ページにすぎなかった。
果敢に挑んだ安田記念でも、最後まで末脚は衰えなかった。地力強化を物語る2階級制覇といえた。前哨戦のセントウルSはハクサンムーンの逃げに屈したが、差はクビだけ。国内での総決算と位置付け、スプリンターSに臨む。
スタートで後手を踏んだものの、二の脚で楽々と挽回する。先行勢を見ながら追い出しのタイミングを待ち、直線は外へ。粘るハクサンムーンをきっちりと捕らえ、G1の5連勝という偉大な記録を打ち立てた。
そして、2年連続となる香港での栄光をつかみ、最高のかたちで種牡馬入りした。抜群のスピードを産駒に伝え、勝鞍を量産しているうえ、幅広いカテゴリーをカバー。大舞台にも強く、アーモンドアイ、ステルヴィオ、ダノンスマッシュ、サートゥルナーリア、レッドルゼル、ファストフォース、パンサラッサ、ダノンスコーピオン、ブレイディヴェーグ、ベラジオオペラ、コスタノヴァと、次々にG1ウイナーを輩出している。日本競馬の未来に向けても、絶大な足跡を刻んでいくに違いない。