サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ラブイズブーシェ

【2014年 函館記念】恋なんていらないと強気な姿勢を貫いて

 力の要る洋芝を得意とし、全6勝のうち3勝を函館競馬場でマークしたラブイズブーシェ。小柄ながらダートを2勝した母ローリエ(その父メジロマックイーン)に、長距離G1を3勝したマンハッタンカフェが配されて誕生した。パワーやスタミナに秀でた血統背景。同馬の全兄にあたるハリーアップ(4勝)も函館巧者だった。全妹のプティットクルールはダートで2勝したうえ、芝2200mにて1勝している。

「2歳時に育成先の谷岡牧場で跨ったとき、父らしい柔らかな乗り心地に惹かれました。ただし、物見が激しく、なかなか進んでくれなかった。トレセンへ移動後も、動きはいたって地味。半信半疑でレースに送り出しましたよ。ひとつ勝つのに苦労した反面、早くから堅実に走ってくれました」
 と、村山明調教師は若駒当時を振り返る。

 10月の京都、芝1800m(5着)でデビュー。以降の2戦は2着に健闘した。6か月間の休養を挟んだ後も、3着、2着と歩み、勝利は時間の問題と思われた。ところが、7月の札幌(芝2000m)を2着したところで、左前脚に軽い炎症を発症。未勝利戦が組まれている間の出走はかなわなかった。

「体力が付き切っていない段階で無理させなかったことで、結果的に成長につながりましたね。いい筋肉が備わり、大人っぽいスタイルになりました」

 11番人気を跳ね返し、栄特別はアタマ差の2着。ダート1700mに挑んだ1月の中京こそ7着に終わったものの、翌週の熱田特別で鮮やかに逃げ切りが決まった。

「押してハナを奪ったあの一戦がきっかけとなり、集中力を増してきました。パドックでもまったくやる気を見せず、のそのそ歩いていたのに、適度な気合いが乗るようになったんです」

 唐戸特別、仲春特別と一気に3連勝。スローの決め手比べとなった下鴨Sは、外を回して11着に沈んだが、調子落ちは感じさせなかった。初体験となる外回りコースの長丁場にも対応し、烏丸Sでも渋太く4着に食い下がっている。

「びゅっと切れる脚はなくても、鞍上の意のまま、ロスなく立ち回れる器用さが売り。4歳夏の函館でぐんと進歩しました。依然として伸びそうな手応えも十分。想像以上に味がありましたね」

 2馬身半の快勝を収めた北斗特別に続き、好位から抜け出す安定した取り口で五稜郭Sも連勝。札幌記念は10着に終わったものの、参考外の極悪馬場だった。放牧を挟み、きちんとリセットさらたうえ、福島記念を3着。有馬記念でも4着に追い込み、さらなる飛躍を予感させた。

「G1を好走した疲れもあり、日経新春杯(8着)、小倉大賞典(6着)、福島民報杯(5着)と不本意な結果に終わりましたが、まだ良化途上に思えた目黒記念(2着)は勝ちに等しい内容。得意の条件に替わる函館記念は、なんとしてもチャンスをつかませたかった」

 出遅れる誤算もあったが、先行勢に不利な淀みない流れ。向正面ですっと外へ出し、3コーナーからロングスパート。直線も勢いは衰えなかった。脇目も振らずにゴールへと邁進。陣営の愛情がしっかり伝わり、Love is boo shet(恋なんていらないの意味)と、強気な姿勢を貫き通した。

 札幌記念(4着)に続き、天皇賞・秋(4着)でも見せ場はたっぷり。ただし、これで懸命な闘志が燃え尽きてしまう。6歳シーズンは5戦連続して二桁着順。新潟記念で5着に盛り返したが、アルゼンチン共和国杯(8着)を最後にターフを去ることになる。

 種牡馬となったものの、目立った活躍馬を残せずに引退。乗馬となり、静かに余生を送っている。持ち前の気高さを維持し、いつまでも健康でと願いたい。