サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ラインシュナイダー

【2017年 サマーチャンピオン】ベテランも歓喜した一生に一度の巡り会い

 HBAサマーセール(1歳)にて350万円で購買されたラインシュナイダー。エルコンドルパサーの貴重な後継であり、ダートG1を9勝したヴァーミリアンが父。母トウジュ(その父テンビー、1勝)はセンカク(中京記念2着)の半姉にあたるが、同馬のほかにJRAを勝ち上がった産駒を送り出せていなかった。

「父のファーストクロップに注目していたなか、バランスが整っていて、コンスタントに走れそうな印象を受けました。地味なファミリーだけに、ひと声で落札。なにか見過ごしていないかと逆に不安でしたが、一生に一度の買い物となりましたよ」
 と、確かな素質を見出した沖芳夫調教師は微笑む。

 キタジョファームで乗り始めると、DDSP(ノド鳴りの一種だが、喘鳴症とは異なり、身体の成長に伴って自然治癒する)の症状が見られ、慎重にペースアップ。それでも、3歳10月に入厩した当初より、パワフルな動きが目を引いた。

「重い馬場でも、ぐんぐん加速。ただし、問題は折り合い面でした。調教でも抑えるのが大変。追い切り以外は、角馬場での運動のみに止め、気持ちを静めるように配慮したんです」

 馬込みでは力むうえ、大きなストライドが特徴で、スタート自体は速くない。未勝利を脱出したのは、6戦目の中京だった。大須特別を勝ち上がり、1000万でも崩れなかったものの、4歳9月の阪神でようやく3勝目をマーク。伊良湖特別に勝利するまで、22戦を消化する必要があった。ただし、一段と安定味を増し、準オープンは4戦で卒業。いずれも中身が濃い内容である。

 初のマイルだったのにもかかわらず、薫風Sをマイペースに持ち込み、惜敗にピリオドを打つ。アハルテケSは最内で窮屈な競馬を強いられながら、渋太く5着に粘り込み、オープンでも通用するメドを立てた。

「二の脚ですっと前へ行けるようになりましたね。上級クラスの流れのほうがしっかり集中できる。ここまで出世できたのは、タフな体質があってこそです。間隔を詰めても回復が早く、若々しいまま。まだまだ伸びる手応えがありました」

 サマーチャンピオンでは初の重賞にチャレンジ。いきなり最高の結果が出た。好位の3番手をキープして、流れに乗る。直線で逃げたウインムートを交し去ると、迫るタムロミラクルの追撃をアタマ差に退け、堂々とタイトルを奪取したのだ。

「ここまでの1400mで、掲示板を外したのは出遅れてちぐはぐになった2戦だけ。相手なりに走れ、2着が13回もありますからね。チャンスは十分と見ていました。相変わらず不器用ながら、道中で行きたがる傾向が薄れ、地方の小回りを克服。ほんと頭が下がります」

 以降は勝ち鞍に恵まれなかったものの、グリーンチャンネルCを2着したのをはじめ、黒船賞(4着)までの6戦で5戦が4着以内。沖トレーナーが定年を迎えてからも、松永昌博厩舎に移って現役を続け、エニフS(3着)や、ながつきS(3着)で復調の兆しを見せた。ところが、明け8歳となった1月、栗東での追い切りで急性心不全を発症。あっけなく天国へ旅立ってしまった。

 馬づくりのベテランに最後となる栄光を運んだラインシュナイダー。あまりに悲しい別れではあったが、深い愛情に包まれ、幸せな生涯だったに違いない。