サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

リアルインパクト

【2014年 阪神カップ】大舞台で際立つ本物のインパクト

稀代のスーパーホースであり、スタリオン入りしてからも日本競馬を牽引するディープインパクト。ファーストクロップより4頭のG1ウイナーが登場したが、初めて牡馬で栄冠を勝ち取ったのがリアルインパクトだった。

 父にしては幅がある好スタイル。母系の速力を色濃く受け継いで誕生した。母トキオリアリティー(その父メドウレイク)はアメリカ生まれで、短距離を3勝。繁殖成績は優秀であり、同馬の兄姉にアイルラヴァゲイン(オーシャンS)、ウィルパワー(インディチャンプやウィルアウェイの母)らがいる。半弟にあたるネオリアリズムはクイーンエリザベス2世CでG1勝ちを果たし、G2も2勝した。

 ノーザンファーム空港にて順調に育成されたリアルインパクト。函館競馬場でゲート試験をパスしたが、丁寧にステップを踏み、いったん放牧を挟んから美浦へ。10月の東京、芝1400mでデビューすると、3馬身差の快勝を収める。

 京王杯2歳S(2着)、朝日杯FS(2着)と健闘。ここで東日本大震災が発生し、山元トレセンで十分に乗り込めずに帰厩したこともあり、ニュージーランドトロフィーは11着に敗れたが、慎重に状態把握に努め、適切なタイミングでフルに力を発揮させる同ステーブルらしく、NHKマイルCでは3着まで差を詰めた。

 そして、果敢に安田記念へと駒を進める。単勝29・3倍の9番人気だったのは無理からぬこと。G1に指定されて以来、同レースを3歳で勝利すれば史上初の快挙である。しかも、古馬相手のチャンピオン決定戦に1勝馬が制したことも皆無だった。ところが、一気に頂点まで駆け登ってしまう。

 想像を超えるパフォーマンスに、堀宣行調教師も驚きの表情を浮かべた。
「正直に言えば、壁は厚いと思っていましたが、現状でも勝つ力を備えていましたね。斤量差も大きかったですし、春シーズン3戦目のフレッシュな状態で臨めたことが勝利につながりました。NHKマイルCへも、しっかりと仕上げて挑みましたので、変らぬコンディションを維持させることに専念した結果です。クレバーな性格で扱いやすいのが長所。流れも向くと見ていました。直線で先頭に立ってからが勝負。最後までよく凌いでくれましたよ」

 持ち味を最大限に引き出したのは、当時、大井所属だった戸崎圭太騎手。これがJRAでの初G1制覇となった。クビ差の2着に追い込んだのも、堀厩舎のストロングリターン(翌年の安田記念に優勝)。リアルインパクトとともに斎藤裕也厩務員の担当であり、愛馬2頭がワン・ツーを決めている。

 毎日王冠(クビ差の2着)より再始動。だが、しばらくは気持ちと体が噛み合わず、長きに渡って勝利から遠ざかる。体力的に余裕があっても、あえて控えめなメニューで心身のバランスを整え直し、5歳秋の富士Sでは久々に2着に食い下がった。

 マイルCSは外枠が堪え、10着に終わったものの、順当に体も絞れて阪神Cへ。ライアン・ムーア騎手は緩いペースになると読んでいた。果敢にハナを奪う。後続も際どく迫ってきたが、ここからが同馬の真骨頂だった。坂を上がり、もうひと伸び。最後まで抜かせずにゴールへと飛び込んだ。

 6歳シーズンは4連敗を喫したが、大切に歩んだ成果が阪神Cで表れる。みごと連覇を達成。5番手に控えるかたちとなり、早めに手を動かしながらも、ゴール寸前にぐいと前に出て、接戦を制する。初騎乗ながら闘志を呼び覚ますことに成功したウィリアム・ビュイック騎手は、こう胸を張った。

「事前に過去のVTRを繰り返し見て、ムーア騎手からも特徴を詳しく聞いていた。あとは思い切り乗るだけ。メンバーが揃い、速い馬も多く、ペースへの対応がポイントだったが、辛抱強くポジションをキープできた。想像していた通り、最後まで渋太かったね」

 翌春はオーストラリアへ遠征。慣れない環境でも、確かな厩舎力が生かされる。ジェームズ・マクドナルド騎手に導かれ、G1・ジョージライダーSに優勝。先行して差し返す粘り強さは、現地へも衝撃を与えた。過酷な重馬場となったドンカスターマイル(2着)でも、懸命なパフォーマンスを披露する。

 十分な実績と年齢を考慮し、マイルCS(8着)がラストラン。社台スタリオンステーションで種牡馬入りした。新馬以外は、G1とG2しか勝っていないユニークな戦績。相手が強いほどインパクトを放った本物の実力派だけに、ラウダシオン(NHKマイルC)が父に続くマイル王に輝いただけでなく、シャトル先のオーストラリアでも人気を集め、続々と現地の重賞勝ち馬を輩出している。新たなスターの誕生が楽しみでならない。