サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

リアルスティール

【2017年 毎日王冠】ハイレベルな世代でしのぎを削った鋼の王者

 ノーザンファーム空港での育成当時も、俊敏かつパワフルな動きを披露していたリアルスティール。満を持して、2歳11月、栗東へ移動した。2度目のチャレンジでゲート試験を合格すると、1本目の追い切りから抜群の反応が目立った。担当した柿崎慎調教助手(矢作芳人厩舎)は、入厩当初より性能の違いを感じ取っていたという。

「まだトモが緩く、全身を使えない状況でしたが、背中の感触が柔らかくて。ディープ産駒としては馬格があり、非凡なパワーも伝わってきましたよ。走る馬に共通する我の強さがあっても、センスは上々。速いところへいけば、素直に反応でき、ひと追いごとの進歩が明らかでした。これは底知れないと思わせましたね」

 稀代のスーパーホースであり、スタリオン入りしてからも日本競馬を牽引したディープインパクトが父。母ラヴズオンリーミー(その父ストームキャット)は未出走だが、その半姉は全欧2歳牝馬チャンピオンに輝いたランプルスティルツキン。曽祖母ミエスク(全欧古馬チャンピオン、全欧3歳牝馬チャンピオン、米芝牝馬チャンピオン、キングマンボらの母)に連なる名牝系である。同馬の全兄がラングレー(6勝)。全弟妹にプロディガルサン(東京スポーツ杯2歳S2着、東京新聞杯2着)、ラヴズオンリーユー(オークス、QE2世C、BCF&Mターフ、香港Cなど重賞5勝)がいる。サンデーサラブレッドクラブにて総額8000万円で募集された。

 阪神の新馬(芝1800m)を3馬身半差の楽勝。いきなり高いハードルを乗り越え、共同通信杯では重賞ウイナーに輝く。スタートして外へ逃げる若さを見せながら、直線は余裕の手応えで馬群を割り、後に皐月賞に勝つドゥラメンテの猛追を半馬身、退けてゴール。2戦目にしてクラシック候補に躍り出た。

 スプリングS(2着)はクビ差だけ届かなかったが、経験を積ませる意味での参戦。皐月賞も2着に敗れたとはいえ、好位を巧みに折り合い、いったん先頭に立った。

「最後に舌を出してもたれながら、ダービー(4着)もよくかんばっています。レース中、左前に軽い骨折を発症した影響があったはずなのに。神戸新聞杯(2着)から行きたがる面を見せ始めましたが、距離が延長された菊花賞(2着)もわずかクビ差。勝ち切れないのがもどかしくても、その都度、能力に自信を深めていました」

 中山記念(3着)をステップに、ドバイターフへ。力強く脚を伸ばし、念願のG1制覇がかなった。果敢に世界へ挑んできた矢作芳人ステーブルにとっても、初となる海外での栄光だった。

「出国前の検疫馬房で落ち着きを失い、飼い食いも落ちて心配したのですが、休み明けを使って状態は上向き。きちっと調教を積んで現地へ移動させました。馬が少なく、エアコンも完備された環境。到着後はむしろ堂々としていましたよ。やるべきことをできた満足感があり、馬もしっかり応えてくれた。すばらしい巡り会いに感謝するしかありません」

 前半で折り合えず、安田記念(11着)を11着。天皇賞・秋ではモーリスの2着に食い下がる。ジャパンC(5着)、中山記念(8着)と歩み、再びドバイに渡ったが、外傷性の鼻出血を発症。しかし、秋緒戦の毎日王冠で鬱憤を晴らした。完璧に折り合い、安田記念でマイルの頂点を極めたサトノアラジンとの追い比べを制する。

「成績が上下動した一因は、輸送してのイレ込み。いつも鞍を置くのに苦労しました。ようやくどっしりし始めた矢先でしたし、まだまだ成長する余地を残していましたね」

 5歳時の天皇賞・秋は4着、翌春のドバイターフも3着に健闘する。しかし、安田記念(15着)がラストランとなった。右前の種子骨靭帯に炎症が認められ、種牡馬入りした。

「早すぎる引退が悔やまれます。でも、一緒に戦えたのは、生涯忘れられない貴重な体験。誇りに思いますよ。非凡なポテンシャルがストレートに伝われば、きっと大物を輩出するはず。子供たちを手がけ、また大舞台に立ちたいと夢見ています」

 柿崎さんの予想通り、フォーエバーヤング(JBC2歳優駿、全日本2歳優駿、サウジダービー、UAEダービー、ジャパンダートクラシック、東京大賞典、サウジC)が登場。同世代でしのぎを削ったドゥラメンテ、キタサンブラック、サトノクラウンらとともにサイアーラインを発展させるに違いない。