サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

リアルヴィーナス

【2014年 葵ステークス】純粋な愛心を届ける美しき女神

 浦河の内田ステーブルで入念な乗り込みをこなしたうえ、2歳7月に栗東へ移動したリアルヴィーナス。安達昭夫調教師は、こう幸運な出会いを振り返る。

「母ラブレター(その父ロックオブジブラルタル、1勝)の若駒時代、管理した坂口正大先生(元調教師)とともに牧場まで見に行った思い出があります。いい繁殖になると思っていましたよ。この仔も整ったバランスで誕生。これほど品がある馬はめずらしいと感心しました」

 皐月賞、有馬記念で国内の頂点を極め、日本馬として初となるドバイワールドCの栄冠を勝ち取ったヴィクトワールピサが父。同馬の兄弟にクレスコモア(3勝)、ブラックジョー(現5勝)、ラヴィングアンサー(現6勝)らがいる。曽祖母は仏・伊で重賞を制したプロスコナ。ヘクタープロテクターやシャンハイなどの種牡馬も名を連ねる名牝系である。

 入厩当初より反応の良さが目立ち、出走の1週前には坂路で51秒7、ラスト12秒4(馬なり)の好タイムをマーク。阪神(芝1400m)で迎えた新馬戦は、スタートで立ち遅れたものの、直線一気に突き抜けた。

「かつて手がけたデスペラードもそうでしたが、ネオユニヴァース産駒は気性の激しさがポイントとなるケースが多い。特に女の子となれば、注意が必要です。普段は大人しいのですが、スイッチが入ると突然、暴れたり、やはり燃えやすい面を抱えていましたね。飼い食いが細いうえ、促さなくてもかかり気味に動きますので、控えめのメニューで心身を整えていました」

 りんどう賞(3着)も後方待機策。不向きな流れのなか、直線の伸び脚は光った。5着に終わったファンタジーSに関しても、位置取りの差が響いた結果である。つわぶき賞で順当に2勝目を挙げた。最後は遊ぶ面を見せたため、手応えほど差は広がらなかったが、完勝といえる内容だった。

 エルフィンS(7着)、フィリーズレビュー(15着)と不発続きだったことから、芝1200mへと路線変更。葵Sは単勝9番人気(17・8倍)まで評価を落としていたが、驚きの変わり身を見せる。ハイラップが刻まれても、楽な手応えで中団を追走。直線で鋭く馬群を割り、堂々とオープン勝ちを果たす。

「あり余るほどのスピードがあり、もともと短距離適性を見込んでいましたよ。ただし、桜花賞を意識してローテーションを組んでいましたし、単調なスプリンターにしたくなく、1400mを中心にしてレースを教え込んできたんです。徐々にであっても、調教時は気持ちのコントロールが利くようになっていましたよ。獣医師の見解でも、まだまだ心臓などは完成途上にあり、上積みは大きいと見込んでいたのですが」

 なかなか状態が整わず、以降は14連敗を重ねてしまった。4歳夏に宮崎特別を2着したのが最後の輝き。6歳1月まで現役を続行したが、度重なる鼻出血に前途を阻まれ、引退が決まった。

 陣営の愛情に磨かれ、3歳にしてヴィーナス(ローマ神話に登場する愛と美の女神)のような美貌を備えたリアルヴィーナス。産駒たちにも注目が集まる。母譲りの才能を開花させる日を楽しみに待ちたい。