サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

リトルアマポーラ

【2008年 エリザベス女王杯】大輪を咲かせた小さな虞美人草

 2008年にリーディングサイアーの座を奪取したアグネスタキオン。同年は代表格のダイワスカーレット(有馬記念、桜花賞、秋華賞、エリザベス女王杯)が充実期を迎えたうえ、ディープスカイ(ダービー、NHKマイルC)、キャプテントゥーレ(皐月賞)ら、3歳世代に続々とスターが登場した。忘れてならないのが、古馬勢を打ち破ってエリザベス女王杯を制覇したリトルアマポーラ。コンスタントに勝ち上がるだけでなく、大舞台向きの底力も兼ね備えていることを証明した一頭だった。

 母リトルハーモニー(その父コマンダーインチーフ)は3勝をマーク。祖母がJRA賞最優秀古牝馬に輝いたルイジアナピットであり、繁栄している血脈である。すらりと手脚が伸びた上品なスタイルで生まれ落ち、リトルアマポーラ(小さなひなげしの花)と命名されたとはいえ、社台ファームでの育成時より大きな期待を寄せられていた。

 山元トレセンを経由し、2歳10月に栗東へ。12月の阪神(芝1600m)を余裕残しの状態で勝ち上がると、暮れの同条件も難なく連勝。3戦目には京成杯に挑み、牡の強豪相手に4着と健闘する。クイーンCでは豪快に突き抜け、重賞初制覇を飾った。クラシックでも注目を集めたが、桜花賞は5着、オークスも7着に終わる。両レースとも直線の伸び脚は目立ったものの、出遅れて流れに乗れなかった結果である。

 春の疲れが長引き、5か月のリフレッシュ後は秋華賞へ直行する。ここでもスタートが決まらず、6着まで追い込むのが精一杯だった。それでも、ラスト3ハロンに限れば、メンバー中で最速の34秒3を駆使している。

 使われた上積みは大きく、過去最高といえる状態で臨めたエリザベス女王杯。鞍上にはクリストフ・ルメール騎手が抜擢された。

「これまでのレースをVTRで確認して、前へ行ければチャンスがあると感じた。トレーナーに相談したら、『それがベスト』という答え。だから、まずはスタートに集中したんだ」
 と、いまや日本競馬のトップに君臨するフランスの名手は振り返る。

 イメージどおりの好発。絶好の5番手で折り合いが付いた。先行勢との手応えの差は歴然であり、直線に向くと早めに先頭。外から追い込んできたカワカミプリンセスらをあっさり振り切り、1馬身半の差を保ったまま、栄光のゴールに飛び込んだ。

 粒ぞろいの同期を退け、最優秀3歳牝馬に選出された同馬。だが、翌春はマイラーズC(7着)、ヴィクトリアマイル(6着)、マーメイドS(3着)と本来の輝きを取り戻せなかった。府中牝馬S(7着)を経て調子を上げながら、クィーンスプマンテの大逃げに屈し、エリザベス女王杯は7着。汚名返上に燃え、愛知杯に駒を進めた。

 56・5キロのトップハンデを課せられたが、すっと2番手をキープする。スローペースとなり、終始、手応えは十分だった。逃げたブラボーデイジーが渋太く粘るなか、あっさり捕えてゴール。着差はクビでも、危なげないパフォーマンスだった。

 結局、これが最後の勝利となったが、2010年のエリザベス女王杯でも4着に食い込むなど、5歳までしっかりと存在感を示す。鳴尾記念(11着)がラストラン。生まれ故郷の白老ファームで繁殖入りした。

 エジステンツァ(5勝)などを送り出した後、2022年に天国へと旅立った可憐な虞美人草。この先も娘のクィーンアマポーラらが華やかにファミリーを繁栄させていくに違いない。