サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

アパパネ

【2010年 桜花賞】天高く羽ばたく幸せの赤い鳥

 引退レースとなったジャパンCでG1の最多記録を9勝まで伸ばし、みごと有終の美を飾ったアーモンドアイ。牝馬3冠を達成したとき、国枝栄調教師は「こんな喜びはもう味わえないと思ったのに、これが2度目。調教師冥利に尽きる。あの馬に教えてもらった貴重な財産があり、それを生かすことができた」と笑みを浮かべた。同馬に先駆け、天高く羽ばたいた傑作がアパパネである。

 牝としては史上最速でG1競走5勝を勝ち取ったアパパネ。父は2年連続してチャンピオンサイアーに輝き、ディープインパクトの登場後も勝ち鞍を量産したキングカメハメハ。母ソルティビッド(その父ソルトレイク)も国枝厩舎で走り、3勝をマーク。フェアリーSを2着した快速馬だった。

 早くから幅がある好スタイルを誇り、2歳7月の福島(芝1800m)でデビュー。初戦は3着に敗れたものの、4か月間のリフレッシュを経て、一段とたくましさを増す。調教でも絶好の動きを見せ始めた。10月の東京(芝1600m)を楽々と勝ち上がり、赤松賞はレコードタイムで豪快な差し切りを決める。

 次のターゲットは阪神JF。大外枠を引きながら、巧みに立ち回って脚をため、鮮やかに突き抜けた。緻密な作戦がもたらした栄光。トレーナーは、こう勝因を分析する。

「関西圏で勝負するのに障害となる輸送の問題を無事にクリア。早めに栗東トレセンへ移動させたのが良かった。美浦所属馬に高いハードルがあるのなら、西の馬にしちゃえばいいと思ってね」

 チューリップ賞は2着だったが、いざG1となればきっちり巻き返すのが同馬の持ち味。好位からラストでぐいと伸び、堂々と桜花賞に優勝する。

「トライアルで負けたとはいえ、勝とうという気持ちが伝わってきて、むしろ自信を深めていたよ。狙い通り、絶好のデキで送り出せた。実際に栗東で調教してみれば、施設面や構造など、合理的にできていると感心することも確かだが、それを東西格差の言い訳にしたくはない。こちらの実状に合わせ、創意工夫していかないとね。力を出しやすいホームグラウンドで出走するときも、なんとか意地を見せなきゃと、燃えるものがあった」

 同着だったとはいえ、オークスも優勝。秋シーズンはローズS(4着)の前週に栗東へ。すっかり慣れた環境のなか、3つ目の頂を目指して、しっかりと負荷がかけられた。長くトップスピードを持続させ、秋華賞も力強く差し切りを決める。

「重圧から解放され、こちらはほっとしたというのが正直な心境だったけど、この馬の一番いいところは精神的に落ち着いていること。以降も我々に『任せておけ、バタバタするな』と言っているよう。ほんと頼もしかったなぁ」

 エリザベス女王杯を3着に踏み止まり、翌春に夢をつなげる。マイラーズC(4着)より再始動。ヴィクトリアマイルに駒を進めた。1番人気を譲ったブエナビスタが猛追したが、並びかけられても抜群の勝負根性を発揮。着差はクビではあったが、危なげない勝利だった。

「1年前より20キロも体重が増えていて、さらに成長したのがすごい点だね。コーナーで自ら動き、堂々と完封。ゴール前は持ちこたえてほしいと、ひたすら念じていた。マークされながら、よく凌いでくれたよ」

 安田記念は6着。府中牝馬Sも14着に沈む。エリザベス女王杯で3着に浮上したが、香港マイル(13着)、阪神牝馬S(7着)、ヴィクトリアマイル(5着)と、なかなかリズムを取り戻せなかった。結局、5歳時の安田記念(16着)がラストラン。屈腱炎を発症してしまい、秋には繁殖入りが決まった。

 母となっても、評価は高まる一方。初仔のモクレレ(4勝)、ジナンボー(4勝、新潟記念の2着が2回、小倉大賞典3着)、ラインベック(現5勝、東京スポーツ杯2歳S3着)に続き、秋華賞を制覇したアカイトリノムスメ(4勝、他にクイーンC、オークス2着)が登場。女王の伝説は、第2章になっても豪華に展開していく。