サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
リスグラシュー
【2019年 有馬記念】ラストランで示した驚異の成長力
2歳時から頭角を現したうえ、5歳になっても驚異の成長力を示し、宝塚記念、コックスプレート、有馬記念とG1の3連勝を果たしたリスグラシュー。ラストランで放った輝きは強烈だった。アーモンドアイ(9着)が断然人気に推されたなか、中団待機からラスト3ハロンでレースの上がりを2秒9も凌ぐ圧倒的な決め手を駆使し、2着のサートゥルナーリアに生涯で最大となる5馬身の差を付けている。数々のタイトルを手にしてきた矢作芳人調教師にとっても、会心の一戦。こう声を弾ませた。
「これが有馬記念の初出走。ファンにとっては1年の集大成であり、私も特別な思いを抱いていましたからね。言葉では表せない喜び。感無量です。できすぎの1年。交通事故などに遭わないように気を付けないといけませんね。
宝塚記念、コックスプレートとフルに能力を引き出してくれたのがダミアン・レーン騎手です。短期免許の規定以外となりますが、有馬記念当日だけ騎乗できるように特例を申請したところ、無事に認められました。JRAもやるなって思いましたよ。
これまで出遅れることが多く、スタートが鍵だと見ていましたが、きちんとゲートを出てくれました。そのあたりにも成長がうかがえます。特にこれといった指示などせず、すべてジョッキーに任せたとはいえ、安心して見ていられましたよ。3、4コーナーでも追い出しを辛抱していて、手応えも1頭だけ違い、あの時点で勝てる自信があったんでしょう」
大舞台での強さに定評があるハーツクライの産駒。母はフランスで5勝したリリサイド(その父アメリカンポスト)であり、同馬の半姉にあたるプルメリアスター(3勝)も矢作厩舎で活躍した。
「1歳の春に見た当初でも、バランスの良さは抜けていました。姉はコンパクトな体型ですし、適距離は1400m、1600mあたり。この仔はハーツらしさが前面に出ていて、ゆったりできています。当初から長めの条件が合うと見込んでいましたね。それなのに、能力の高さでマイルへも対応。想像以上の瞬発力を秘めていました」
入厩して1週間でゲート試験にパス。1か月後に迎えた新潟の新馬(芝1600m)はクビ差の2着だったものの、ラスト33秒0の鋭さが光った。使われて集中力が高まり、中1週で臨んだ阪神の芝1800mを好位から楽々と差し切る。タイムは1分46秒2のレコードだった。1番人気に応え、アルテミスSも連勝。阪神JFは2着だったが、後方から最速の上がり(3ハロン34秒5)を繰り出している。
チューリップ賞(3着)、桜花賞(2着)、オークス(5着)、ローズS(3着)、秋華賞(2着)、エリザベス女王杯(8着)と、3歳時も健闘したとはいえ、なかなかスタートが決まらず、展開に泣いた。翌春の東京新聞杯を制したものの、阪神牝馬S(アタマ+クビ差の3着)に続き、ヴィクトリアマイルはハナ差の2着。安田記念(8着)を経て、休養を挟むと、体重が10キロ以上増えて安定する。
「普段は落ち着きを保ち、調整に苦労はありませんでしたが、いい意味でデリケート。飼い食いも細く、スマートな体の維持がポイントでしたね。それが、ぐっと中身が充実。気持ちにも余裕が出て、ずいぶん立ち回りが上手になりました」
府中牝馬S(クビ差の2着)をステップに、エリザベス女王杯に優勝。念願のG1ウイナーとなる。長距離輸送も克服し、香港ヴァーズを2着。翌春は金鯱賞(2着)、クイーンエリザべス2世C(3着)と歩み、いよいよ完成期を迎えた。
「コックスプレートから有馬記念に向かう間も、一段と体が進化した実感がありました。そんな見立てに間違えがないことを証明できたのがうれしかったですよ。悔いを残さないよう、2週続けて併せ馬を行い、しっかり攻めましたが、重め残りが心配だったくらい。栗東りの出発時は488キロありましたからね。でも、馬が自分で体をつくり、当日は20キロ絞れていました。一生に一度は獲りたいと思っていた年度代表馬に。リスグラシューは、ずっと宝物です」
繁殖としても期待が高まる一方。母譲りの成長力を受け継いだ大物の登場が待ち遠しい。