サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ルーラーシップ

【2010年 鳴尾記念】パワフルかつエレガントな走る芸術品

 サンデーサラブレッドクラブにて総額1億8000万円という規格外の価格で募集されたルーラーシップ。数々のスターホースを手がけた角居勝彦調教師も、類まれな個性をこう表現する。

「生まれ落ちた瞬間から大きな期待を託された逸材です。まるで芸術品のよう。雄大でパワフルなのに、筋肉のしなやかさも兼備している。あんなダイナミックにストライドを伸ばせる馬なんて、滅多にいません」

 母はオークス、天皇賞・秋などを制した名牝、エアグルーヴ(その父トニービン)。繁殖成績も超一流であり、同馬の姉兄妹にはアドマイヤグルーヴ(エリザベス女王杯2回、ドゥラメンテの母)やフォゲッタブル(ステイヤーズS)、グルヴェイグ(マーメイドS)らがいる。配された父は、わずか3世代だけでリーディングサイアーに輝いたキングカメハメハである。

 ノーザンファーム早来で乗り込まれていた当時より、一貫して高い評価を受けていた。入念に態勢が整えられたうえ、2歳11月に栗東へ移動する。

「手元にやってきてからは、鍛えるというよりも、気持ちのコントロールに主眼を置いた調整でデビュー(12月阪神、芝2000mを3馬身半差の快勝)させました。うちには半姉のポルトフィーノ(父クロフネ、3勝)もいましたが、かなりの能力を秘めていても、燃えすぎる気性が課題。怒らせないよう、こわごわと時計を出した段階だったのに、予想以上の強さを見せてくれた。まずは第一関門を突破し、ほっとしたというのが正直な感想でしたね」

 続く若駒Sは行きたがり、直線も窮屈なシーンがあっての2着だった。左後脚のフレグモーネや軽い熱発を乗り越え、アルメリア賞で2勝目をマーク。致命的な不利を簡単に跳ね除ける。毎日杯(5着)では出遅れ、人気を裏切ってしまったものの、影をも踏ませぬ快走でプリンシパルSを突破。早めにハミを噛む若さをのぞかせながら、ダービーでも5着に健闘した。
 品のある薄い皮膚の持ち主なのだが、こうしたタイプは蹄壁が減りやすいことが多い。当時も弱点に配慮した調整過程を踏み、素質だけで走っている状況だった。成長を促すべく、北海道で休養に入ると、しばらくはウォーキングマシンとトレッドミルでの運動のみに止め、爪が伸びるのを待つ。慎重にペースアップされ、11月に帰厩した。

 半年ぶりとなった鳴尾記念では、4番手で折り合いが付いた。勝負どころでの反応はひと息だったが、直線に向くと悠然と加速。半馬身差まで迫るヒルノダムールを振り切り、待望の初重賞制覇を成し遂げた。

「太く映らないのに、12キロ増の体重。芯が入ってきたんです。母譲りの厚いトモがさらにふくらんで、立派なスタイルとなりました。レース間隔が開いても上手に競馬ができ、気性面の成長も実感させられましたよ」

 出遅れが響き、有馬記念は6着に終わったとはいえ、4歳シーズンの飛躍を予感させる内容。日経新春杯での強さも忘れられない。2馬身差の完勝だった。

 ドバイシーマクラシック(6着)では折り合いを欠いて結果を残せなかったが、金鯱賞を貫録勝ち。宝塚記念(5着)、有馬記念(4着)と、G1戦線でも健闘する。

 5歳緒戦のアメリカJCCでG2のタイトルを奪取。香港のクイーンエリザベス2世カップを鮮やかに勝利し、国際G1の勲章を手にした。宝塚記念もオルフェーヴルの2着。競走生活の後半はゲート難に悩まされることとなるのだが、天皇賞・秋(3着)、ジャパンC(3着)、有馬記念(3着)とも豪快に追い込み、ポテンシャルの高さを再認識させた。

 優秀な遺伝子を次世代に伝え、キセキ(菊花賞)、メールドグラース(コーフィールドC)、ソウルラッシュ(マイルCS、ドバイターフ)、ドルチェモア(朝日杯FS)、ヘデントール(天皇賞・春)をはじめ、順調にトップホースを輩出。ルーラーシップ(支配者の位)を継承する新たな逸材の登場が楽しみでならない。