サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ルージュバック

【2016年 毎日王冠】エリート紳士を酔わせる魅惑のカクテル

 2歳9月、新潟の芝1800mで迎えた新馬を楽々と差し切ったルージュバック。駆使したラスト3ハロンは32秒8の鋭さだった。

 管理する大竹正博調教師も、想像以上のパフォーマンスに驚かされたという。
「東京開催でのデビューを目標にしていましたが、3本の追い切りのみでも軽々と動けていました。前倒しして正解。輸送も堪えず、落ち着いて臨めましたよ。牡馬相手に強い勝ち方。示した瞬発力は天性のものです。一気に夢がふくらみました」

 レッドディザイア(秋華賞)、ジョーカプチーノ(NHKマイルC)、ヒルノダムール(天皇賞・春)、グレープブランデー(ジャパンダートダービー、フェブラリーS)、クイーンズリング(エリザベス女王杯)をはじめ、多彩なカテゴリーに一流馬を送ったマンハッタンカフェが父。ルージュバックとは高級ブランデーをジンジャーエールで割ったカクテルであり、BCディスタフなど米G1を6勝、エクリプス賞最優秀古牝馬に輝いた母ジンジャーパンチ(その父オーサムアゲイン)より連想された。繁殖としても着々と評価を上げ、同馬の半弟にポタジェ(大阪杯)、テンカハル(日本テレビ盃2着)がいる。

 体質は繊細ながら、自ら体をつくり、無理なく出走態勢が整ってしまうのがルージュバックの特長。早くから短期間のトレセン在厩でレースに臨むスタイルが確立した。百日草特別も2馬身半差の完勝。タイムは2歳レコードだった。折り合いを欠くことがなく、もともとセンスも優秀。たっぷり間隔を開け、きさらぎ賞で初のタイトルを奪取する。

 ところが、桜花賞はスローペースに泣いて9着。オークスで2着に巻き返したものの、札幌記念を熱発して回避する。リズムが狂い、エリザベス女王杯(4着)、有馬記念(10着)ともG1の壁に跳ね返されてしまった。

 4歳シーズンも、中山牝馬S(2着)、ヴィクトリアマイル(5着)とほろ苦い結果。それでも、エプソムCで久々の美酒に酔う。いよいよ飛躍の季節が到来。前走に続き、1番人気(単勝3・3倍)の支持を背負い、毎日王冠へ。トレーナーも確かな手応えを感じ取っていた。

「飼い食いの細さが付きまとい、仕上げに慎重さを求められたとはいえ、ひと夏を越して芯が入ってきました。その先のG1を意識して、多くを求めずにレースへと送り出したとはいえ、これまでより中身の濃い調教を施せたましたからね」

 レースはスローに流れたが、むしろ瞬発力が生きる展開。後方で脚を温存して、直線は余裕の手応えで馬群の外に持ち出す。瞬時にエンジンが全開となり、ラストは切れに切れた。2着のアンビシャスをきっちりと捕らえ、悠然とゴールを通過する。

 ただし、天皇賞・秋は7着、ジャパンCも9着。5歳春は金鯱賞(8着)より戦列に復帰する。ヴィクトリアマイル(10着)でも期待を裏切り、ピークは過ぎたのかと思わせものの、オールカマーで反撃。好位のインをロスなく立ち回り、狭い馬群を割った。

 大目標のエリザベス女王杯は後方の位置取りが堪え、9着に終わった。それでも、ラストランの有馬記念でも後方から最速の上がり(3ハロン34秒3)を繰り出し、5着に食い下がり、惜しまれつ繁殖入りした。

 現在のところ、 フレーヴァード(現3勝)が代表産駒。筋が通った血統背景に加え、牡のトップクラスを相手に4つの重賞を勝ち取った実績の持ち主だけに、続々と新たなスターを送り出すに違いない。