サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ルックトゥワイス
【2019年 目黒記念】何度も見返したい鮮烈なパファーマンス
セレクトセール(当歳)にて3200万円で落札されたルックトゥワイス。ドバイシーマクラシックや香港ヴァーズを制した底力を伝え、種牡馬として大成功を収めたステイゴールドの産駒。母エスユーエフシー(その父アルザオ)は、英米で3勝を挙げた。同馬の半兄にミッキーパンプキン(5勝、重賞での3着が2回)、インプレザリオ(2勝)らがいる。
追分ファームリリーバレーでの乗り込みを経て、2歳10月には藤原英昭厩舎へ移動する。ただし、ゲート試験の合格に時間を要し、デビューにこぎつけたのは年明け2月の東京(芝1800mを6着)。後方に置かれてしまい、エンジンがかかったのはゴール直前だった。
長期的な未来図を描き、丁寧にステップを踏むステーブルらしく、5か月間のリフレッシュを経て、中京の芝2000mを勝ち上がる。出遅れを跳ね除け、大外を突き抜ける鮮やかな内容。ただし、ゲート入りを嫌がり、再試験の制裁を受けた。
担当したのはトーセンラーをはじめ、多くの逸材を育てた片桐一善調教助手。こう当時の状況を振り返る。
「気性が激しいというより、自分の意志をはっきり持っていて、賢すぎるんです。ジョッキーが跨ると、レースが近いことを察して馬場入りを拒否するように。古馬になっても、乗り慣れたスタッフでないと追い切りができませんでした」
暮れの中京(芝2200mを4着)で復帰。続く同条件は2着に前進したものの、2度目となる発走調教の審査を求められる。さらに根気強く練習を繰り返し、春日山特別へ。久々に加え、スタートで後手を踏みながら、後続を6馬身も置き去りにした。
「目隠しすればスムーズにゲートへ。だんだん我慢を覚えてきました。飼い葉をよく食べ、だんだん中身も詰まってきました。楽に動ける体力が備わったことも、気持ちに余裕が出た要因です」
さらに青嵐賞を3馬身差で快勝。これまでと違って好位に取り付けたうえ、ラストの伸びも断然だった。
「これは重賞レベルだと確信した一戦。まだ3、4コーナーで遊ぶ傾向があり、促す場面もありました。それでも、馬が納得したらスピードは長続き。走りたいように回ってきただけで、あの強さでしたからね。時計も優秀なのに、余力はたっぷり。上がってきて、息は乱れていなかった。驚きましたよ」
後方に置かれながら、木曽川特別はハナ差の2着。魚沼特別で順当に4勝目を手にする。ノベンバーS(2着)、緑風S(2着)、ジューンS(2着)、 日本海S(3着)、六社S(2着)と惜敗が続いたとはいえ、心身の充実に伴い、すっかり成績は安定。格上挑戦したアルゼンチン共和国杯こそ8着だったものの、グレイトフルSをあっさり差し切った。コーナーリングがスムーズなことから左回りを一貫して使われてきたが、初めての右回りも克服する。
6歳シーズンも上々のスタート。日経新春杯は半馬身差の2着に食い下がる。日経賞(6着)、新潟大賞典(4着)と歩み、目黒記念へと駒を進めた。両サイドから挟まれて出脚が付かず、ポジションを悪くしたが、手綱を託されたダミアン・レーン騎手は慌てずにリズムを守る。息の入らない流れのなか、直線は大外一気の逆転劇。2着にコンマ2秒の決定的な差を広げた。タイムは2分28秒2のレコード。堂々たる金メダルである。
「ステイゴールドの仔を手がけるのは初めてだったのですが、長所を受け継いだんでしょうね。小柄ですし、接していて、そうすごさが伝わってこなくても、ストライドはとても柔軟です。エンジンのかかりが遅く、2着が多かったあたりも似ていますが、年を重ねて成長するあたりも」
アルゼンチン共和国杯を4着。ジャパンCは10着。さらなる前進が期待されたが、その後は態勢が整わず、引退が決まった。馬名は「2度見る」との意味ながら、ルックトゥワイスのベストパファーマンスはあまりに鮮烈であり、つい何度も見返してしまう。