サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ワンダースピード
【2009年 東海ステークス】関ケ原を越えても加速する内弁慶な古豪
湯浅三郎厩舎よりデビューし、11戦目となる10月の福島で未勝利を脱出したワンダースピード。4歳になって笠松の交流競走(ガーネット特別)で2勝目を手にしたとはいえ、相手に恵まれた感が強かった。6月には京都のダート1800mを勝ち上がったものの、昇級後は6連敗。5歳1月の京都(ダート1800m)でようやく1000万下を卒業した。
湯浅師の定年に伴い、新規開業を迎えた羽月友彦厩舎へ。ここから快進撃が始まる。転厩緒戦の鳴門Sは9着だったが、1200mの流れに対応できなかったもの。続く梅田Sでは、羽月ステーブルに記念すべき初勝利をもたらした。
父キンググローリアスにとっては最後の大物。確実性が高い反面、息長く活躍する産駒が少なかったなか、異色の個性派だった。母ワンダーヘリテージ(その父プレザントタップ)は未勝利であり、地味なファミリーではあるが、半弟のワンダーアキュートも後を追い、JBCクラシック、帝王賞、かしわ記念をはじめ、重賞を7勝することとなる。
勢いに乗って東海Sに臨むと、11番人気の低評価を覆して半馬身差の2着に健闘。好位でも競馬ができるようになったうえ、長く集中力が持続するようになり、末脚の迫力も増してきた。
「輸送が苦手で、かつてはレース前に燃え尽きてしまったのでしょう。内弁慶な性格はずっと同じ。外見的に急激な変化はありませんでしたよ。ちょうど本格化する時期に、手元へやってきたんだと思います」
と、トレーナーは控えめに笑みを浮かべるのだが、精神面に配慮した丁寧な仕上げが、馬をやる気にさせたに違いない。
シリウスSを3着した後にアルデバランSを制し、ジャパンCダート(9着)へ挑戦するまでに充実。6歳時はベテルギウスSを順当に差し切り、アンタレスSではついにタイトルを奪取。すっかり重賞の常連となった。帝王賞(5着)など、関東への遠征では結果を残せなかったが、名古屋圏までなら安定して能力を発揮できる。名古屋グランプリは2馬身半差の危なげない勝利だった。
晩生のファイターが最も輝いたのは7歳シーズンである。後に頂点を極めるエスポワールシチーを我慢強く追い詰め、ぐいと振り切ってゴール。古豪のプライドを見せ付ける堂々たる勝ち方だった。名古屋大賞典はスマートファルコンの逃げに屈したとはいえ、半馬身差の2着。レコード決着となったアンタレスSも2着に食い下がった。
4つ目となる重賞を制覇したのが東海S。好位を巧みに立ち回り、早めに抜け出したアロンダイトをあっさり交し去った。梅田Sで跨って以来、能力を絶賛していた小牧太騎手は、こう満足げに笑顔を浮かべた。
「行かせようと思えば行ける馬だけに、スタートだけを気を付け、ポジションを取りにいった。流れは激しかったけど、ずっと手応えに余裕があり、これから大丈夫だと安心。理想通りの競馬ができたね。ますます力を付けている」
シリウスS(5着)では弟のワンダーアキュートに勝利を譲ったが、ハンデ差が響いたもの。名古屋で行われたJBCクラシックでも、アタマ+クビ差の3着し、確かな才能を再認識させた。
JCダート(15着)でハイペースに失速しながらも、名古屋グランプリで2着に浮上。なかなか態勢が整わず、8歳は3戦のみしか消化できなかったが、ラストランとなった名古屋グランプリをみごとに勝ち切る。全46戦を懸命に走り抜いた。
種牡馬を引退し、静かに余生を過ごしているワンダースピード。それでも、尾張の名物レースで発揮した筋金入りの強さは、いまでもファンの目に焼き付いたままである。