サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
アドマイヤラクティ
【2013年 ダイヤモンドステークス】南半球まで届いたダイヤモンドの光彩
6歳の秋(現地ではスプリングシーズン)にオーストラリアへ遠征し、G1・コーフィールドCを制覇したアドマイヤラクティ。1番人気に推され、大目標のメルボルンCに向ったものの、急性心不全を発症して失速。レース後に倒れ、息を引き取った。あまりに突然の別れだった。
有馬記念やドバイシーマクラシックを制したハーツクライのファーストクロップ。豊富な成長力を産駒に伝え、ウインバリアシオン(日経賞、青葉賞)ら、同期より6頭もの重賞ウイナーが登場している。母は5勝をマークしたアドマイヤテレサ(その父エリシオ)。祖母ヒードは芝9ハロンの米G3・ニジャナSの覇者であり、同馬の妹弟にサトノジュピター(4勝)、アドマイヤジャスタ(函館記念、ホープフルSを2着)がいる。セレクトセール(1歳)にて、3200万円で落札された。
名馬ラクティ(チャンピオンS、クイーンエリザベス2世Sなど)のような成功を願って命名された逸材は、2歳11月、京都の芝2000mでデビュー。出遅れながらも半馬身差の2着に追い込んだ。2戦目となった阪神の芝1800mを豪快に抜け出す。
3歳春シーズンは強敵相手に苦戦したものの、半年間のリフレッシュを経たことで、晩生の血が騒ぎ出した。9月の阪神(芝2000m)では500万クラスを卒業。徐々にゲートの鈍さも解消に向かい、昇級してもすべて3着以内にまとめた。
末脚の破壊力が自慢であっても、スタミナにも優れているのが強み。道悪や直線の急坂もこなせる。4歳春に館山特別、湾岸Sと鮮やかに連勝を飾った。2着だった垂水S(2着)にしても、厳しい展開のなかで手応え以上の渋太さを発揮している。
爪の状態に配慮して4か月間の休養を挟み、古都Sを順当に突破する。アンドロメダS、金鯱賞、アメリカJCCと、3戦連続して3着に食い込んだ。
そして、ダイヤモンドSでは待望のタイトルを手にした。前半は後方でじっくり構え、コーナーからロングスパート。坂下では先頭へ踊り出て、後続に2馬身半の差を付ける。梅田智之調教師は、さらなる飛躍を思い描いていた。
「素質だけで走ってきた感がありながら、なかなか崩れなかった。もともと重賞を獲れると見込んでいた期待馬でしたよ。大切に使ってきただけあって、ひ弱さが薄れ、想像どおりに進歩。緩かった体にだんだん芯が入り、渋った坂路でもフォームがぶれなくなっていました。その反面、勝ち味が遅いのは、勝負どころでもたつくため。かつては精神面が幼く、他馬にひるんでしまう傾向にありましたからね。そのなかでも、ずいぶん落ち着きが出て、操縦性も向上しつつあった。いずれ集中力が高まり、もっと器用に動けるようになると見ていたのですが」
天皇賞・春を4着。目黒記念(11着)では期待を裏切ったが、京都大賞典(4着)、アルゼンチン共和国杯(2着)、ジャパンC(4着)と秋シーズンは堅実に歩む。その後の成績は上下動を繰り返し、有馬記念(11着)、阪神大賞典(2着)、天皇賞・春(13着)。それでも、陣営はG1級の能力を信じていた。
悲しい最期が待ち受けていたとはいえ、世界最大級の競馬カーニバルに貴重な足跡を残したアドマイヤラクティ。日本競馬の未来へ向けても、まばゆい光彩を放ち続ける。