サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ワンミリオンス
【2017年 TCK女王杯】ひた向きに前進する聡明なプリンセス
小崎憲調教師が送り出した最高傑作といえば、G1を6勝したスマートファルコンの名が真っ先に挙がるが、同じゴールドアリュールの産駒であり、砂戦線に鮮烈なインパクトを残した一頭にワンミリオンスもいる。
母シーズインポッシブル(その父ヤンキーヴィクター)はテスタマッタ(フェブラリーS、ジャパンダートダービーなど重賞を4勝)の半姉にあたり、アメリカで4勝をマークした。同馬の半妹にオールポッシブル(5勝、アイビスサマーDを3着)ら。曽祖母ウィングズオブジョーヴ(GⅠ・メイトロンS)に連なる魅力の血脈である。
「この配合だけに、もともとダート適性を見込んでいました。同じ父のルベーゼドランジェ(5勝、オーバルスプリント2着)に近いイメージ。胸が深く、詰まり気味のボディーです。成長はゆっくり目でも、ノーザンファーム早来で大切に育てられ、ちょうどいいタイミングで入厩できましたね。無理のないステップを踏み、スムーズに出走態勢が整いました」
と、トレーナーは若き日を振り返る。
2歳10月にゲート試験を1回でパス。いったんリフレッシュを挟み、年明けにデビューする。当初はダッシュで踏ん張りが利かず、3着、6着と敗戦を重ねたが、ラストの決め手は確実。3月の阪神(ダート1400m)では4馬身も差を広げた。
「トレセンの環境でも平静を保て、飼い葉もしっかり食べてくれます。牝ながら扱いやすく、教えたことを素直に吸収。ほんと賢い馬でしたよ。スタートの課題を除けば、操縦性が向上。砂を被って嫌がったり、他馬に気を遣ったりする若さも薄れてきました」
続く芝1600m(8着)は結果が出なかったものの、再び条件を戻した阪神で3着まで猛追。7月の中京を順当に勝ち上がる。楽な手応えで突き抜け、後続を6馬身も置き去りに。桁違いの破壊力を見せ付けた。リフレッシュ後は京都で2着。馬群に囲まれる苦しい位置取りが響いた結果であり、河口湖特別を順当に差し切る。銀嶺Sも連勝。早くもオープンに登り詰めた。
「エンジンのかかりが遅く、調教は動けない状況。それなのに実戦へいけば、がんばって鋭く脚を伸ばしてくれるんです。感心しましたよ。しばらくは走り慣れた1400mで出世させるプランでしたが、もう少し長めへも対応できると見ていました」
すっかり勢いに乗り、TCK女王杯に挑む。すっと好位に付け、スムーズに追走。楽な手応えで抜け出した。
「交流重賞の路線で前進させたいと思っていたところ、脚質に幅を広げ、いきなり結果が出てしまった。コース形態も問いません。かつては右回りだと外へもたれがちでしたが、きついコーナーに対応。底知れない可能性を感じましたね。トモの弱さが改善され、徐々にパワーアップ。締まった馬場で良績を挙げていても、スタミナ面だって強化されつつありましたよ」
さらに距離が延びたエンプレス杯も、2番手を巧みに立ち回り、あっさり抜け出す。しかし、ピークが短い牝らしく、以降は9連敗を喫する。それでも、うち5走で掲示板を確保。百万分の一との馬名通り、稀有な才能を垣間見せ、中身の濃い競走生活を送った。
余力をたっぷり残して繁殖入り。母としてもミリオンヒットを放つに違いない。