サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ワンカラット

【2010年 函館スプリントステークス】サマーシリーズに煌めくスプリント界のダイヤモンド

 短距離戦線で4つの重賞を勝ち取ったワンカラット。牝が走ることで知られるファルブラヴの代表格である。父は8ハロン(クイーンエリザベス2世S)から12ハロン(ジャパンC)までのG1を8勝しているが、同馬以外にもエーシンヴァーゴウ(アイビスサマーダッシュ、セントウルS)など、スプリンターも送り出した。

 ワンカラットの母は、フランス生まれのバルドウィナ(その父ピストレブルー)。芝2100mのG3・ペネロープ賞を制している。2005年の種付けシーズンに限ってイギリスへとレンタルされていた父が配合されたうえ、輸入後に社台ファームで誕生した。藤岡健一調教師は、こう個性を説明してくれる。

「優秀な繁殖ですよ。ただ、父親の良さをストレートに伝えるのでしょう。妹弟のサンシャイン(3勝、愛知杯2着)やトップアート(現2勝)、ジュエラー(桜花賞、シンザン記念2着、チューリップ賞2着)とはスタイルも、適性なども、まったく異なりますね。あの仔も身体的には長めの条件をこなせたはずなのですが、激しい気性の持ち主。あり余るパワーの制御に気を遣いました」

 2歳の8月、小倉の芝1200mでデビュー。2番手から押し切った。小倉2歳S(5着)以降は常にトップクラスと渡り合い、スタートで躓いたデイリー杯2歳Sを6着した後、ファンタジーSをクビ差の2着。だが、阪神JFでは折り合いを欠き、12着に敗退した。

 フィリーズレビューより再スタートし、いきなり重賞に優勝。桜花賞(4着)やNHKマイルカップ(6着)でも、思い切った追い込み策で見せ場をつくった。3歳後半はローズS(10着)、秋華賞(7着)と歩んだが、やはり距離の壁を感じさせた。不利を受けた阪神Cこそ16着に惨敗したものの、京都牝馬S(4着)、阪急杯(2着)と前進。出遅れが響いた阪神牝馬S(9着)を経て、ヴィクトリアマイル(7着)へも駒を進める。

 決して早熟ではなく、このころにはデビュー時に470キロ台だった体重が500キロをオーバー。筋肉が張り出し、よりスピード色が強いスタイルとなった。1200mに的を絞り、CBC賞(3着)へ。これで勢いに乗り、いよいよ充実期を迎えた。

 函館スプリントSでは好位のインでしっかり脚がたまり、見違えるような末脚を繰り出す。後続を2馬身も突き放す完勝。タイムはレコードだった。

 手綱を取った藤岡佑介騎手も、満足そうに笑みを浮かべた。
「間隔が詰まっていても、なんとか状態を維持していました。ゲートをポンと出て、4コーナーでも引っ張り切り。抜け出す脚が速かった。こちらはつかまっているだけでしたよ。まだまだ奥があります」

 3コーナーでぶつけられ、左前と右トモを落鉄しながら、キーンランドCも危なげなく突破。みごとにサマースプリントシリーズのチャンピオンに輝く。

 スプリンターズSも5着に健闘。5か月間のリフレッシュを挟み、阪急杯(5着)より復帰したが、高松宮記念(15着)で左前脚の蹄骨を骨折してしまう。以降はスワンS(7着)、京阪杯(3着)、阪神C(12着)、淀短距離S(4着)と成績は上下動した。

 みごとに復活を遂げたのがオーシャンS。インを突き、鮮やかに抜け出す。だが、この一戦で脚元が限界に。高松宮記念を目前にリタイア。繁殖入りが決定した。

「G1でも一発があると思わせた逸材。並外れた身体能力に、種牡馬の長所が加味されれば、スーパーホースが誕生して不思議はない」
 とトレーナーも期待を寄せていたが、ワントゥワン(5勝、関屋記念2着、京成杯AH2着、富士S2着)の活躍を見届けることなく、第2仔のキスミーワンス(1勝)を産み落とした直後、8歳の若さで早逝してしまった。それでも、きっと一族の繁栄を天国で後押ししているに違いない。アラタ(現7勝、福島記念)の母となったサンシャイン、ヴェールランス(現3勝)に続く活躍馬の誕生が待たれる。ジュエラーといった妹たちだけでなく、貴重な2頭の娘たちも未来へと血をつなげていく。