サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

モズカッチャン

【2017年 エリザベス女王杯】渾身の仕上げに応えた純真なクイーン

 2歳12月の阪神(芝1800m)は出遅れが響いて6着だったが、続く京都で3着に前進したモズカッチャン。小倉の芝1800mを豪快に突き抜け、後続に2馬身半も差を広げた。鮫島一歩調教師は、こう若き日の印象を話してくれる。

「もともと幅があり、マイラーに映るスタイル。いわゆる背ったれ(背中がへこんだラインのため、前後の連動にロスが大きく、スタミナも消耗しやすいとされる)でしたしね。トレセン近郊のアカデミー牧場でも順調に乗り込まれ、手間取らずにデビューできたとはいえ、当時は動きも地味で。コントロールしすい素直な性格ですし、思いのほか乗り味が柔らかいとはいっても、その後の充実ぶりは、想像をはるかに超えるものがありましたよ」

 キングジョージ6世&クイーンエリザベスSを11馬身もの大差を付けてレコード勝ちしたハービンジャーが父。母サイトディーラーは不出走だが、キングカメハメハが配された良血であり、モズ(札幌2歳Sに2着)、クインズハリジャン(京王杯2歳S2着)の半姉にあたる。曽祖母ブライトティアラ(重賞を5勝したゴールドティアラの母)に連なるファミリーだ。

 先行して渋太さを生かし、中山の500万下も連勝。イメージを一新させたのがフローラSだった。軽い馬場での決め手比べに対応。ラスト33秒9の瞬発力を爆発させ、きっちり差し切りを決めた。

「だんだんレースを覚え、課題だったゲートも改善へ。普段はどっしり落ち着き、飼い葉を食べ、鍛えて味がありました。輸送しても馬体減りは少なく、遠征が続いても難なく克服。追い切りの反応も変わってきましたね」

 ソウルスターリングを目標に早めのスパートで勝負したオークス(2着)。3着には2馬身半の差を付けている。

「全身を使えるようになり、体型的な欠点も目立たなくなった。ずいぶん伸びやかさを増しましたよ。距離延長に関しては半信半疑でしたが、心肺機能が優秀ですから。オークスでの堂々とした走りに、こちらも勇気を与えられました」

 ローズS(7着)は手応えほど伸び切れなかったが、先行勢を見ながらインで巧みに折り合えた。コーナー4つの内回りとなる秋華賞でも流れに乗ったレース運び。3着に健闘する。

 そして、エリザベス女王杯へ。スローペスになっても、好位でスムーズに折り合う。直線で前が開くと、瞬時に反応。逃げたクロコスミアをきっちり捕え、ミッキークインの猛追も凌いだところがゴール。3歳にして、みごと女王の座に君臨した。

「夏場は北海道でしっかりリフレッシュ。一段とボリュームアップし、着実な成長がうかがえました。牝らしからぬタフな体質です。秋華賞後も疲れなど見せず、ますます快調。上積みは大きかった。もう能力への信頼はゆるぎないものになっていましたので、エリザベス女王杯に向けても、ベストの態勢を整えられるよう、全力を尽くすまで。さすがに古馬勢は手ごわく、最後の最後まで気が抜けませんでしたが、理想的な立ち回りだったうえ、持ち前の懸命さをフルに発揮してくれました」

 京都記念(4着)をステップに、ドバイシーマクラシック(6着)へ。札幌記念はハナ+アタマ差の3着だった。4歳時のエリザベス女王杯も3着に健闘。有馬記念(8着)、金鯱賞(9着)と歩んだところで右前に屈腱炎を発症してしまい、余力を残しながら繁殖入りした。

「厩舎に初となるG1のタイトルを運んでくれ、馬に感謝するしかありません。たくさんのことを学びました。早すぎる別れが寂しい限りですが、真面目な性格やパワフルな身体は、きっと産駒へも伝わるでしょう」

 いまのところJRAで勝ち上がった産駒はいないものの、本領発揮はこれから。母の名を高める逸材の登場を楽しみに待ちたい。