サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
モルトベーネ
【2017年 アンタレスステークス】名手も感激したベリーベストな乗り心地
HBAセレクションセール(1歳)にて、1500万円で落札されたモルトベーネ。NHKマイルC、ダービーの変則2冠を達成した一方、サウンドスカイ(全日本2歳優駿)、キョウエイギア(ジャパンダートダービー)をはじめ、ダートを得意とする産駒を多く輩出するディープスカイが父である。母ノーブルエターナルは地方で7勝をマーク。同馬の兄姉にマイネルグラシュー(5勝)、エターナルムーン(4勝)らがいる。
松永昌博調教師は、こう幸運な出会いを振り返る。
「セリに上場された当時もバランスが整っていた。母父アフリートらしい雰囲気があり、いかにも機敏そう。二風谷共同育成センターで順調に乗り込まれ、2歳の5月に入厩できた。調教は前向きに動けたよ。ただし、ほんとやんちゃで。実戦となれば乗り難しい。高ぶりやすい精神面のコントロールに気を遣ったね」
中京の芝1400mでデビュー。11着に敗れた。中2週でダート1200mを試し、大外を4着まで追い込む。いったんリフレッシュを挟み、11月の京都、ダート1800m(3着)へ。クビ差の2着を経て、好位から差し切りが決まった。
「長めの距離なら無理せずにポジションを取れる。それでも、しばらくは強い相手が揃っていたし、流れに応じた立ち回りが苦手だった」
昇級後は4連敗。昨夏に函館(ダート1700m)を勝ち上がり、大雪ハンデもクビ差の2着に詰め寄ったが、以降の4戦はラストで集中力を欠いてしまう。イメージを一新させたのが年明けの京都(ダート1800m)。狭いインを進出しながら、楽な手応えで抜け出す。
「物見が激しく、ふわふわしがちだったのに、あれで気持ちが切り替わったね。持ち味を生かしやすい小回りだっとはいえ、門司S(早め先頭から2馬身差の完勝)も想像以上に強かった。イメージ以上の奥深さを感じ始めたよ」
ブリリアントSは5着だったものの、直線に向いて前が壁になり、スムーズに追い出せなかった結果。花のみちSを順当に勝ち上がる。3戦続けて掲示板を外したが、東海Sは2着に食い下がった。アルデバランSでオープン勝ちを果たす。位置取りの差が響いたとはいえ、名古屋大賞典も4着に健闘した。
「だんだんだんレースを覚え、馬込みでも我慢が利くようになってきた。いい筋肉が備わり、身体的にも完成の域に。これならば、重賞にも手が届くと見ていたんだ」
すっと好位に付け、終始、楽な手応えでインをロスなく追走したアンタレスS。直線は一気に馬群を割り、熾烈な2着争いを尻目に2馬身の決定的な差を広げた。ミルコ・デムーロ騎手も、「モルトベーネ(イタリア語でとても良い)な乗り心地。前走は地方の深い馬場が合わなかっただけ。スムーズに走れれば、反撃できると信じていた」と胸を張った。
さらなる前進が期待されたが、結局、これが唯一の勲章。6歳時の東海Sで3着しながら、徐々に本来の懸命さが薄れ、連敗を重ねてしまった。それでも、7歳になり、地方へ転出のうえ、以降に11勝を積み重ねる。
波乱万丈な歩みであっても、成績以上のインパクトを残したモルトベーネ。アンタレスSでの人馬一体となったパフォーマンスは、いつまでも一等星の輝きを放ち続ける。