サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
モンドキャンノ
【2016年 京王杯2歳ステークス】驚きの逆転劇を演じた若き俊才
セレクトセール(当歳)にて1500万円で落札されたモンドキャンノ。父は高松宮記念を連覇したキンシャサノキセキである。母レイズアンドコール(その父サクラバクシンオー)もスプリント戦で5勝したうえ、アイビスサマーダッシュを3着に健闘した。カナダの重賞(ナタルマS)に勝った祖母モーリストンベルに連なるファミリー。同馬の兄姉弟にブルーイングリーン(2勝)、ラクアミ(3勝)、カリボール(現5勝)らがいる。管理した安田隆行調教師は、こう若駒当時を振り返る。
「いい買い物ができたと、オーナーも喜んでいました。もともとバランスがすばらしい。スピードが強調された配合の割りにスマートでしたが、1歳になったころからたくましさを増し、この血らしい雰囲気に。前向きな気性ですし、体力の向上も目覚ましかった。育成先のノーザンファーム早来でも若駒離れした動きが評判でしたね。昨年4月に入厩した当初から、楽々と加速。潜在能力には、ずっと自信を持っていましたよ」
先々を見据えて操縦性を磨きながら、慎重にステップを踏む。それでも、馬なりで古馬オープンと併入できるほどだった。函館競馬場へ移り、芝1200mでデビュー。好位から楽々と抜け出す。
「いざとなって燃えやすいとはいえ、実戦を走り終えても素直なまま。融通が利いたメニューを消化でき、調整に苦労はありませんでした。函館2歳S(半馬身差の2着)は、勝ち馬にうまく立ち回られた結果。ハイラップが刻まれるレコード決着のなか、前に壁をつくって脚をためられ、ゴールまで懸命に脚を伸ばし、教科書通りの競馬ができています。この調子でレースを覚えていってほしかったですね。早くから完成度が高かった一方、いい筋肉が備わってくる途上。伸びる余地がたっぷり残されていましたから」
ワールドワイドな活躍を期待してモンドキャンノ(仏語のMonde+Can Knowで、世界を知ることができるとの意)と名付けられた逸材。世界に名を轟かせたロードカナロアの後を追い、トレーナーも輝かしい未来を切り拓けると見ていた。
大切に態勢を整え直し、京王杯2歳Sへ。そろっとスタートさせ、中団より後ろの位置取りになった。ところが、直線で大外に持ち出すと、レースのラスト3ハロンをコンマ5秒も凌ぐ末脚(33秒7)が炸裂。驚きの差し切りが決まった。
「前半で行きたがっても、なんとか抑えが利きました。スイッチの入り方は、やはりスプリンター特有のもの。距離との闘いになると覚悟していたのに、長い直線をプラスに働かせ、終いの爆発力でねじ伏せてしまった。1400mを克服でき、マイルの大舞台も視野に入ってきました」
朝日杯FSでもメンバー中で最速の上がり(3ハロン34秒0)を駆使し、半馬身差の2着に迫っている。ただし、翌春以降は不完全燃焼に終わった。
「前半から行きたがったスプリングS(10着)と違い、NHKマイル(9着)では折り合いに進境がうかがえたのですが、最後まで集中力が持続しませんでした。もともと最適と見ていた1200mにシフトしても、なかなかエネルギーを温存できず、本来の瞬発力を引き出せなくて」
キーンランドC(6着)、スプリンターズS(14着)、オーロC(10着)とレースを重ねるにつれ、ノド鳴りの症状が顕著になった。手術に踏み切り、半年ぶりに安土城Sへ。効果は見られず、17着に大敗する。現役続行を断念。早々と引退することとなった。
輝かしい2歳時のパフォーマンスに反し、苦悩が付きまとった後半の競走生活。それでも、天才的なポテンシャルを秘めていたのは疑いようがない。産駒は稀少であり、種牡馬となっても苦戦が続いているが、あっと驚く逆転劇を期待している。