サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
モーニン
【2016年 フェブラリーステークス】ダートの頂上決戦に響き渡るファンキーなアメリカンジャズ
アメリカのトレーニングセール(OBSマーチセール)にて33万5000ドルで落札されたモーニン。公開調教での反応は目を引くものがあり、ラスト1ハロン10秒0の好タイムをマークしていた。翌月にノーザンファーム早来に到着。預託を打診された石坂正調教師も、確かなポテンシャルを感じ取ったという。
「たくましい好馬体。当時からオーラを放っていましたよ。ただし、長旅の疲れが出てしまい、その後に体が細化してしまって。まだトモの弱さも目立っていましたしね。それで、牧場でも急がずに調整。デビューは3歳5月と、ずいぶん遅くなりました」
京都のダート1400mは、既走馬相手に5馬身差の圧勝。あっさりと東京のダート1600mを勝ち上がると、4か月間のリフレッシュを挟み、新涼特別、秋嶺Sと4連勝でオープン入りを果たした。
「立派な外見ながらも、身のこなしが緩く、良くなるのに時間がかかるだろうと想像していたのに。とんとん拍子の出世に驚くしかなかったですよ。走るたび、可能性は底知れないと思わせました」
武蔵野S(3着)で初の敗戦を喫したとはいえ、スタートと向正面で他馬と接触する不利があり、脚をためられなかった結果。しっかり充電され、根岸Sに臨むと、好位から危なげなく抜け出した。早々と重賞ウイナーに輝く。
勢いに乗り、フェブラリーSへ。淀みないペースを早めに押し上げながらも、直線でも伸び脚は衰えない。後続の強襲を楽々と振り切り、栄光のゴールに飛び込んだ。
「能力の高さを見せ付けてくれました。まだキャリアが浅く、かわいい顔をしています。そんななかでも、中2週ながら、きりりと締まった体に。だいぶ丈夫になったと実感するとともに、デキの良さも確信していましたね。
ジョッキーには『スタートはちょっと遅いが、気にせずに運んでほしい』と伝えました。思ったより後ろの位置になりましたが、長手綱で折り合っていましたので、これならばと見ていましたよ。これまでのイメージと違い、最後にしっかりと伸び、ラスト1ハロンですばらしい瞬発力でした。
もともと短いところがいいと思っていましたが、難なくマイルもこなしてくれましたね。タイムは1分34秒0のレコード。かつて手がけたチャンピオンホースのヴァーミリアンとは個性が異なり、パワーとともにスピードを兼備しています」
夢がふくらむ一方だったが、かしわ記念は8着。日本テレビ杯でアタマ差の2着に盛り返したものの、以降も連敗を重ねてしまう。6歳になって、コーラルS、コリアスプリントに勝利。JBCスプリント(4着)、根岸S(4着)、フェブラリーS(4着)と見せ場をつくったが、もう一歩の懸命さを欠き、全盛期の輝きは取り戻せなかった。
7歳時のスワンS(18着)がラストラン。優駿スタリオンステーションで種牡馬入りした。いまのところ目立った活躍馬を送り出せていないが、頂上決戦で披露したジャズの名曲「モーニン」を高々と再演する逸材の登場を待ちたい。