サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
スマートレイアー
【2016年 東京新聞杯】丁寧な積み重ねがもたらした驚きの変わり身
マイル以下で重賞3勝をマークしたうえ、芝2400mまで守備範囲を広げ、京都大賞典に優勝するなど、中身の濃い競走生活を送ったスマートレイアー。続々と産駒が勝ち上がり、繁殖としても着々と評価を高めつつある。
「父はトップサイアーのディープインパクトですが、母系の特徴を色濃く受け継ぎ、コロンとしたスタイル。1歳で出会ったころは、あんな切れ味を秘めているとは想像できなかったですね。それに、体質も弱くて。大きなトラブルはなかったのですが、脚元が浮腫んだり、疲れがたまったりを繰り返し、入厩できる態勢が整うのに、ずいぶん時間がかかりました」
と、大久保龍志調教師はスマートレイアーの若駒当時を振り返る。
母スノースタイル(その父ホワイトマズル)は北海道競馬の認定競走を勝ち上り、JRAで2勝を挙げた。同馬の半兄にカントリースノー(4勝)。京都新聞杯を制したプラチナムバレットは半弟にあたる。
坂東牧場での基礎固めを経て、2歳秋には宇治田原優駿ステーブルへ。さらにノーザンファーム天栄に環境を替えて乗り込みを進め、栗東に移動したのは3歳3月になってからだった。
「デビューが遅れたことも、結果的には成長につながった。普段はとても大人しく、扱い自体は楽。それでいて、いざとなれば気が入り、メリハリの利いたタイプなんです。イメージ以上に反応は鋭く、身のこなしも柔軟。15-15を始めた時点で、これはものが違うと思わせましたよ」
桜花賞が行われた当日、ようやく未勝利戦に初登場。阪神の芝1600mでデビューすると、既走馬を相手に余裕の差し切り勝ちを演じた。初の長距離輸送で大きく体を減らしながら、5月東京(芝1800m)も2番手からラスト32秒8の脚を繰り出し、あっさり連勝を飾る。
3か月間のリフレッシュ明けとなった三面川特別は4着に終わったが、夕月特別を順当に勝利。一気にハードルを上げて秋華賞へ駒を進めた。出遅れて後方に置かれたものの、直線で大外に持ち出すと鋭く伸びて2着に食い込む。愛知杯(6着)は追って案外だったが、大阪城Sで鋭い決め手を駆使。楽勝を飾った。
阪神牝馬S(当時は芝1400m)が次のターゲット。大きく出遅れてしまい、後方に置かれたが、エンジンの違いを見せ付け、直線一気に突き抜ける。ラスト3ハロン(33秒3)は、レースの上がりを1秒5も凌ぐ圧倒的なものだった。
「まだき甲が抜け切らず、幼さが前面に出た状況にあり、頼りなさが残っていたのに。きつい競馬となったなか、改めて非凡な才能を感じ取ることができましたね。以降は気難しい面に阻まれて、極端な競馬でないと力を発揮できないのがパターン。歯がゆい思いをしましたが、徐々に繊細さが薄れ、しっかり鍛えられる体力が備わってきたんです」
ヴィクトリアマイルは8着。クイーンS(3着)、府中牝馬S(2着)、翌春の阪神牝馬S(4着)などで一流の素質を垣間見せながら、米子Sに勝つまで7連敗。しかし、再び府中牝馬Sを2着、エリザベス女王杯に5着と、安定味を増していく。
6歳シーズンは東京新聞杯より始動。好スタートが決まり、初めてハナに立った。スローに落として脚をため、直線は持ち前の切れを駆使。後続を寄せ付けなかった。
「慎重に状態を見極めながら、手前の替え方など走りが粗削りな状況の改善に努めました。まさか逃げるとは思いませんでしたが、ずいぶんコントロールが容易に。その後につながる価値ある一戦となりましたよ」
阪神牝馬Sも早々と先手を奪い、渋太く粘り通す。ヴィクトリアマイルを4着に善戦。府中牝馬S(3着)、香港ヴァーズ(5着)でも崩れなかった。
7歳になって、ますます快調。京都記念(2着)、ヴィクトリアマイル(4着)、鳴尾記念(2着)を経て、京都大賞典で4つ目の重賞制覇を成し遂げる。レースの上がり3ハロンを1秒0も凌ぐ圧倒的な決め手(33秒4)を炸裂させ、強力な牡馬勢に快勝した。
「つかみ切れない部分が多いぶんも、まだ変わる可能性を秘めていると信じていました。でも、この年齢で過去最高のパフォーマンス。奥深さは想像以上でしたね」
エリザベス女王杯(6着)、香港C(5着)と健闘したうえ、翌年の有馬記念(13着)まで現役を続行する。丁寧なレイアー(層、積み重ねなどの意)を糧にして、全35戦(9勝)をタフに戦い抜いたスマートレイアー。きっとビッグマザーとなり、息長く存在感を示すことだろう。