サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ステファノス
【2014年 富士ステークス】栄冠の先に臨む最高峰の頂
ニュージーランドに渡って種牡馬となったステファノス。あと一歩でG1に迫った実績を誇り、成長力に富む遺伝子である。大物を輩出しても不思議はない。
日本競馬を世界レベルに押し上げたディープインパクトの後継。母ココシュニック(その父クロフネ)はダートで3勝をマークした。同馬は初仔だが、妹にあたるココファンタジア(3勝)、フィニフティ(クイーンC2着)、リャスナ(現1勝)らも確かなポテンシャルを垣間見せている。祖母のゴールドティアラが南部杯でG1を制したほか、プロキオンS、シリウスS、ユニコーンS、かきつばた記念などに優勝。その半弟にポエツヴォイス(英G1・クイーンエリザベス2世S、同G2・シャンペンS、同G2・セレブレイションマイル)がいる。キャロットクラブに総額7000万円で募集された。
ノーザンファーム空港での育成は順調に進行した。2歳5月、栗東に移動。7月の中京(芝1600m)は4着だったが、藤原英昭調教師も、非凡な才能を感じ取っていた。
「常に余裕の手応えで、大人びた走り。父特有のしなやかなフットワークを繰り出すだけに、芝での決め手も見込んでいた。この母系らしいたくましいスタイル。ただし、まだ中身が詰まらず、いかにも体力不足だった。奥は深いと見ていたよ」
リフレッシュを挟み、京都の未勝利をクビ差の2着。続く阪神(芝1600m)を快勝した。一戦ごとに調教内容を強化でき、白梅賞(5着)を経て、つばき賞に勝利。毎日杯(3着)、皐月賞(5着)でも見せ場をつくる。白百合Sでオープン勝ちを果たし、以降は一線級と渡り合うこととなる。
セントライト記念は4着。それでも、直線で窮屈になり、脚を余したのは明らかだった。磨きがかかってきた瞬発力を生かそうと、陣営は次のターゲットに富士Sに定める。狙いはすばり的中。スローの上がり勝負となったなか、きっちりと前を捕らえ、ついに重賞制覇がかなう。
「すばらしい乗り味。スタートが良く、思ったよりも好位置を取れたうえ、きちんとコントロールも利きました。終始、楽な手応え。着差(クビ)以上の完勝です」
と、騎乗した戸崎圭太騎手は胸を張った。
本格化は先と見て、ゆったりしたローテーションを組み、中山記念(3着)より再スタート。クイーンエリザベス2世Cに挑む。しっかりと脚を伸ばし、ハイレベルな国際G1で2着を確保した。毎日王冠(7着)をステップに、天皇賞・秋へ。半馬身差の2着に善戦する。香港C(10着)は期待に反したとはいえ、5歳シーズンもクビ差の2着した鳴尾記念を皮切りに、宝塚記念(5着)、毎日王冠(5着)、天皇賞・秋(3着)と健闘。同年の香港Cは3着に食い込む。
大阪杯では3度目となるG1での2着。成績が上下動したものの、安田記念(7着)、オールカマー(2着)、天皇賞・秋(10着)、香港C(4着)も懸命に走り抜いた。7歳時は5戦を消化して、毎日王冠の4着が最高の着順だったが、長きに渡ってファンに愛され、幸せな競走生活を送っている。
ステファノスとはギリシア語で「冠」の意味。手にしたタイトルは14年の富士Sのみながら、日本一の頂にちなんだレース名に違わず、栄冠の輝きは永久に薄れない。