サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ストレイトガール
【2016年 ヴィクトリアマイル】純真に意欲を燃やす永遠の少女
仕上がりの早さを生かし、2歳8月、札幌の芝1500m(11着)でデビューしたストレイトガール。翌週の芝1200mで一変し、初勝利を収めた。
サンデーサイレンスの後継ながら、スプリント色が濃いフジキセキの産駒。母ネヴァーピリオド(その父タイキシャトル)も短距離で3勝を挙げている。
「もともとスタートが速かったし、この血統らしいスピードを感じていました。ただ、エルフィンS(6着)まで5連敗。2勝目が遠かったですよ。環境の変化に弱く、かっとしやすいのが悩み。最大の課題は輸送にありました。どうしても体が減ってしまって。だから、函館開催に照準を合わせることにしたんです」
と、藤原英昭調教師は若駒当時を振り返る。
4か月半のリフレッシュを経て、6月の函館(芝1200m)で差し切り勝ち。それでも、いきなり全力を尽くした反動は大きく、疲れが癒えるのは遅かった。現地競馬でもイライラしがちであり、折り合い面にも課題を残す状況。函館を2戦、札幌に移って2戦したのみで9か月間の休養を挟んだ。
摩周湖特別(2着)以来となった6月の函館(芝1200m)こそクビ差の2着に敗れたものの、翌週の同条件をあっさり勝利する。函館スポニチ賞、函館日刊スポーツ杯と3連勝でオープン入り。しかも、タイムを大幅に詰め、半馬身だった着差も2馬身に広げた。UHB賞も馬場が荒れたインを強襲する中身が濃い勝ち方。さらにキーンランドCをクビ差の2着し、将来の大舞台に夢をつなげた。
「長いビジョンで馬のことを考え、体力を温存しての再スタート。滞在、北海道の芝、そして、夏。得意の要因が重なった結果とはいえ、驚きの連続でしたね。間隔を詰めても体重は安定していたし、レースに慣れて回復が早くなり、次はもっと体が動く好循環に。肉体が完成され、気持ちにも余裕が出てきたことで、非凡な才能が際立ってきましたよ」
当日輸送を克服し、尾張Sを快勝。シルクロードSでは晴れて重賞ウイナーに輝く。高松宮記念も3着に健闘。マイルへの距離延長に対応して、5歳時のヴィクトリアマイルは3着まで脚を伸ばした。
前がふさがる不利が響き、函館スプリントSは11着だったものの、スプリンターズSをあと一歩の2着。香港スプリントでも3着に食い込み、世界に向けても実力をアピールした。
6歳シーズンは高松宮記念(13着)より始動。ヴィクトリアマイルで一変し、ついにG1の勲章を手にする。すっと好位をキープして、末脚を温存。直線もロスなくインを付き、まっすぐに伸びる。きっちりと先行勢を捕えてゴール。タイムはレースレコードタイとなる1分31秒9だった。
「馬場や外枠、香港からの帰国初戦といったなかでも、高松宮記念の敗因が把握できずにいて、半信半疑な部分が大きかったのですが、元気があり、張りも良かったですからね。6歳の牝ということを懸念し、我々はナーバスになっていても、馬は平気でした。若々しいストレイトガールでしたよ。内枠のラインをそのまま延ばしたイメージで、すばらしい脚を駆使。強い相手にもまれた成果が一気に花開きました」
セントウルS(4着)を使って調子を上げ、スプリンターズSに駒を進めた。スタートで寄られながら、あせらずに中団で脚をためる。ペースは落ち着き、ラストの決め手勝負となったが、わずかなスペースをこじ開け、瞬時にトップへと踊り出た。
「年齢を重ねて精神的にどっしりし、マイルのほうがリズムを取りやすくなっているうえ、位置取りが後ろになったのに、ミラクルな勝利でした。どこから抜けてきたのかわからないくらいの混戦。読んでいた展開とは違い、ペースか流れず、時計も遅めだったなか、馬とジョッキーが怯まなかったのが勝因でしょう」
香港スプリント(9着)、阪神牝馬S(9着)と同馬らしさが見られず、7歳時のヴィクトリアマイルは単勝17・7倍の低評価に甘んじたが、敏腕ステーブルの熱心な取り組みに応え、能力をストレートに発揮。抜群の切れを駆使して、後続を2馬身半も置き去りにした。
「香港スプリントで引退させる予定でしたが、レース後にオーナーから希望があり、少し時間をもらって状態を見極めたうえ、現役続行を決めました。そんな過程もあって、前走は馬もびっくりしていたのかもしれません。苦境を乗り越えられたのはポテンシャルがあったからこそ。あきらめずに仕上げたスタッフにも感謝するしかないですね。勝つときは運もあるもの。直線ではすぱっと前が開きました。それにしても、強かったですよ」
結局、これがラストランとなったが、陣営の愛情に包まれ、幸せな競走生活を送ったストレイトガール。すでにアスクビートルズ(現1勝)、ストレイトアスク(現1勝)、マドモアゼルアスク(現1勝)を送り出しているが、繁殖としての充実期はこれからである。一途な闘争心を受け継いだ大物の登場を期待したい。