サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ヤマニンキングリー

【2009年 札幌記念】奥深い魅力に満ちた二刀流の王者

 天皇賞・秋、香港Cをはじめ、芝のG1を4勝しただけでなく、フェブラリーSなどダート重賞も6勝したアグネスデジタル。ファーストクロップにして、3つのタイトルを獲得した代表格にヤマニンキングリーがいる。

 母ヤマニンアリーナ(その父サンデーサイレンス)は2勝をマークした。同馬の半姉に中山牝馬S、クイーンSを制したヤマニンメルベイユ。ヤマニンシュクル(阪神JFなど重賞2勝、秋華賞2着、桜花賞3着)が姪にあたる筋が通ったファミリーだ。

 2歳9月に札幌(芝1800m)でデビュー。好位から楽々と抜け出す。黄菊賞では、オークス馬となるトールポピーを一気の末脚で交し去るなど、早くから非凡な才能を垣間見せていた。あと一歩で春のクラシックには出走できなかったものの、白百合Sに勝ち、晴れてオープン馬に。秋には菊花賞(9着)へも駒を進めた。

「潜在能力には自信を持っていたが、若いころは脚の長さばかりが目立ち、いかにも繊細だった。挫跖をしたり、小さなトラブルが多くてね。精神面も弱く、いざレースとなると、一気にテンションを上げてしまう。それが菊花賞以降になって、ぐんとたくましくなったんだ」
 と、管理した河内洋調教師は振り返る。

 適性が高い中距離に照準を定めると、アンドロメダSに続き、中日新聞杯を連勝。中山金杯、小倉大賞典、中京記念でも、惜しい2着に食い下がる。イレ込みが改善され、体質の強化も明らかだった。

 5か月間の休養を経て、札幌記念へ。マイナス20キロの体重は想定外であり、単勝28・2倍の7番人気に甘んじる。それでも、好位を手応え良く追走。堂々と抜け出して、圧倒的な人気を集めたブエナビスタの強襲をクビ差で凌ぎ切った。みごとにG2優勝がかなう。

「錦岡牧場でたっぷり英気を養い、心身ともにフレッシュな状態。函館での乗り込み量も十分だったし、中身ができている自信はあったよ。強烈な破壊力に欠け、離して勝つようなタイプではないが、どこからでも競馬ができるのが強み。ゲートを出していっても、折り合いが付くしね。得意な洋芝で、うまく立ち回ることができた」

 いきなり力を尽くした反動が癒えず、天皇賞・秋(7着)を7着。ジャパンC(16着)では鼻出血を発症してしまう。5歳時はシンガポール航空インターナショナルC(11着)にも挑戦したが、なかなか体調が安定しなかった。裂蹄にも悩まされ、長期のスランプに陥る。

 翌夏の復帰後は、小倉記念(4着)、朝日チャレンジC(4着)と見せ場をつくり、復調の気配は明らかだった。ここでダートに目を向ける。さすがに父の遺伝子。シリウスSではスムーズに2番手を進み、楽な手応えのままで先頭に立つ。後続に2馬身半の差を付け、久々にトップでゴールを駆け抜けた。

「加減せずに乗り込める態勢を取り戻していた。もともとダートもこなせそうなフットワーク。初の条件が刺激となり、ようやく前向きな気持ちも蘇ってくれたんだ。砂を被ることもなく、持ち味をフルを生かせたよ。簡単にあきらめてはいけない。そう馬に教えられたね」

 JCダート(7着)以降は、砂の本格派たちの厚い壁に阻まれ、地方へ転出するまで8連敗を喫したとはいえ、7歳時のシリウスSも2着に健闘した。

 息長く走れたのは、ターフ限定ではなく、ダートもこなせる才能を兼備していたからこそ。アグネスデジタル産駒は様々なカテゴリーで活躍しているが、芝とダートの二刀流で重賞レベルに達したのはヤマニンキングリーだけである。同馬を抜きにして、スーパーサイアーのスペシャリティは語れない。