サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ヤマトマリオン
【2008年 東海ステークス】大波乱を巻き起こすアグレッシブな女神
上位8頭までがコンマ3秒差と、手に汗握る接戦となった2008年の東海S。ゴール前でぐいと伸びたのは、単勝102・2倍、13番人気のヤマトマリオンだった。半馬身差の2着にはラッキーブレイク(16番人気)。馬単が31万4000円、3着は2番人気のフィフティーワナーが確保したものの、3連単で513万7110円の高配当が飛び出した。
管理する安達昭夫調教師は、こう晴れやかな笑顔を浮かべた。
「賞金的にずっと微妙なラインでしたから、目指すレースも定められなくて。登録の段階での出走順位は17番目(フルゲート16頭)。同じ週の芝1200m(テレビ愛知オープン)にも申し込んだくらいです。右回りでは外に逃げるくせがあり、中京は得意。この馬向きの脚抜きがいい馬場に加え、折り合いもぴたりと付きましたからね。すべてがうまくいった感じですよ」
デビュー前よりパワフルな動きを見せていたヤマトマリオン。2歳10月、京都の芝1200mで迎えた新馬は2着。馬群を嫌って逃げる悪癖を抱えながらも、3戦目となる阪神のダート1200mで初勝利を挙げた。
年明けの京都、ダート1800mで2勝目。その後はチューリップ賞(14着)、忘れな草賞(5着)と歩み、フローラSへと駒を進めた。スタートが決まったうえ、スローペースでも我慢が利き、直線はスムーズに外へ持ち出せた。横一列の決め手比べとなったなか、力強く抜け出す。10番人気(単勝22・7倍)の低評価を覆す鮮やかなパフォーマンスだった。
「あんなにトモや胸前がたくましい牝なんて、滅多にいませんよ。潜在能力には、ずっと自信を持っていました。あのときは前日の輸送が初めて。直前までレースが近いと察することなく、落ち着いて臨めたのが結果に結び付きました。でも、一緒に過ごした時期を振り返れば、胃が痛むことばかり。我の強さが半端じゃなくて」
ますます反抗的な態度が目立つように。安達師の背中に噛み付き、くっきりと歯型を残したこともある。オークス(13着)以降、2年間に渡って連敗を重ねた。
「地下馬道が大嫌いに。パドックを真っ先に出て、馬場まではキャンターで通過させても、突然、ブレーキをかけてしまう。いったん止まったら、さあ大変。頑として動かない。ジョッキーが降りればしぶしぶ歩き出すのに、今度はなかなか乗せようとしないんです。引っ張ったり、なだめたり。そんなときは成績も振るいません。4歳時に川崎の交流、スパーキングレディー(7着)に挑んだときは、絶好の舞台だと意気込みましたよ。左回りに加え、重馬場も得意。しかも、地下馬道がないんですから。でも、すごい勢いで馬場へと暴走し、なかなか止まらなかった」
5歳時の東海Sで牡馬の強豪相手を打ち破ったのも、きつい気性があってのこと。なぜか中京ではトンネルで膠着したことがなかった。この一戦がきっかけとなり、成績はぐっと安定。クイーン賞、TCK女王盃とタイトルを追加していく。白山大賞典を2着、交流重賞での3着も4走ある。ラストランは8歳2月のTCK女王盃(11着)。10歳になり、正式に繁殖入りが決まった。
「ほんとタフ。父オペラハウスから成長力やスタミナを受け継いでいますし、母ヤマトプリティ(その父アンバーシャダイ、ダートで6勝)も息長く走りましたからね。子供たちもよく似ています」
初仔のマリオはダートで4勝をマークしたうえ、障害に転じて2勝。マリオマッハー(4勝)もオープンまで出世した。 マリオンエール(1勝)、マリオロード(4勝、プロキオンS3着)も安達調教師に勝利をプレゼントした。さらなる逸材の登場を待っている。