サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
アドマイヤムーン
【2007年 京都記念】世界を照らす寒月の光彩
セレクトセール(当歳)にて1600万円で落札されたアドマイヤムーン。ノーザンファーム早来で育成が進むと、めきめきと評価を上げていった。身体能力の高さは折り紙付き。調教を休んだことは皆無だった。
父は豊富なスピードを伝えるエンドスウィープだが、母マイケイティーズ(不出走)がサンデーサイレンスの産駒だけに、伸びやかさも兼備。曾祖母ケイティーズ(愛1000ギニー)に連なる優秀な母系であり、近親にヒシアマゾン(エリザベス女王杯)、スリープレスナイト(スプリンターズS)らがいる。
新月のころより芳しい逸材だったアドマイヤムーン。2歳6月、函館競馬場に入厩。早くも翌月の芝1800mでデビューし、出遅れながらも豪快に大外を突き抜けた。粗削りな状況にもかかわらず、クローバー賞、札幌2歳Sと次々に突破。ラジオたんぱ杯2歳Sはハナ差の2着だったとはいえ、久々が影響し、もたれたのが敗因だった。ゲートの課題もクリアでき、クラシックへ向けて明るい展望が広がった。
共同通信杯より3歳シーズンをスタート。、瞬発力の違いを見せ付け、計ったように前を捕える。異次元の末脚で弥生賞も完勝。だが、皐月賞は大外から4着に迫ったところがゴールだった。落ち着いたペースに動けず、ダービー(7着)も不完全燃焼に終わる。
輝きを取り戻したのが札幌記念。レースのラスト3ハロンをコンマ8秒も凌ぐ33秒5の切れを駆使し、歴戦の古馬をあっさり撃破した。天皇賞・秋(3着)でも、上がりは最速。香港Cで2着に食い込み、翌年の飛躍につなげた。
京都記念で5つ目のタイトルを奪取した。中団でじっくり脚をため、直線は抜群の反応で先頭へ。一瞬で勝負を決める。着差はクビ差でも、最後まで余力はたっぷり残っていた。
「いつもスタートが遅いけれど、普通に出てくれたからね。すんなり流れに乗れ、終始、楽だった。スローペースだったうえ、59キロを背負っていたのにもかかわらず、文句なしの強さだよ。ドバイ遠征に向け、自信を深めることができた」
と、武豊騎手は声を弾ませた。
勇躍、ドバイデューティーフリーへ向かい、悲願のG1制覇を成し遂げる。直接、香港に移動して挑んだクイーンエリザベス2世C(3着)はスローペースに泣いた結果だった。
帰国後も順調に調整され、宝塚記念に優勝。新たにコンビを組んだ岩田康誠騎手が調教から入念にコミュニケーションを取った成果もあり、豪快な差し切りを決めた。
ダーレー・ジャパンに所有権が移り、4歳秋は2戦を消化。他馬と接触する不利を受け、天皇賞・秋は6着。いつもより早めに動くパターンを選択しながら、ジャパンCを堂々と勝ち切り、底力を再認識させた。
ダーレー・ジャパン・スタリオン・コンプレックスでスタッドイン。セイウンコウセイ(高松宮記念)、ファインニードル(高松宮記念、スプリンターズS)ら、強烈な個性を放つ産駒を送り出した。2024年シーズンで種牡馬を引退したものの、競馬の未来に向けて、さらに名月の光彩を放ち続ける。