サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

スクリーンヒーロー

【2008年 ジャパンカップ】輝かしきオスカーを手にした燻し銀のヒーロー

 実力派の地位をしっかり固めている鹿戸雄一厩舎にあって、礎となった名優がスクリーンヒーロー。開業初年度にして、いきなりジャパンカップの栄光を勝ち取った。

「スクリーンヒーローと巡り会えて、たくさんのことを学びましたよ。あの馬に勇気を与えられたからこそ、エフフォーリア(皐月賞、天皇賞・秋、有馬記念)で大舞台に挑んだ際も、浮足立つことなく取り組めた。何度もあんな感動を味わえるよう、現状に満足せず、もっと努力していかないと」
 と、鹿戸トレーナーは感慨深げに話す。

 有馬記念(2回)や宝塚記念などG1を4勝したグラスワンダーが父。種牡馬としても、他にアーネストリー(宝塚記念など重賞を5勝)、セイウンワンダー(朝日杯FS)ら、大物を送り出している。

 母ランニングヒロイン(その父サンデーサイレンス)は2戦して未勝利に終わったが、その兄姉にステージチャンプ(日経賞、ステイヤーズS、菊花賞2着、天皇賞・春2着)、プライムステージ(札幌3歳S、フェアリーS、桜花賞3着)ら。祖母ダイナアクトレス(毎日王冠、スプリンターズSなど重賞4勝、安田記念2着、オークス3着、ジャパンC3着)に連なる名名系である。

 2歳11月、ファミリーゆかりの矢野進厩舎よりデビュー。東京のダート1600mを4着した。続く中山(ダート1800m)を2着し、3戦目の同条件を順当に勝ち上がる。昇級の壁はなく、カトレア賞を3着した後、500万下を逃げ切った。

 初芝となったスプリングSは5着。伏竜Sも2着し、当時はダートで先行力を生かすのがベターと思われたが、ダービーを目指してプリンシパルSへと駒を進めた。7着だったとはいえ、スムーズに追走でき、ここでも十分に適性を示す。

 以降は一貫してターフへ。エーデルワイス賞を僅差の4着したうえ、ラジオNIKKEI賞で2着に前進。新潟記念こそ16着に敗れたものの、セントライト記念は3着に巻き返した。

 ところが、左ヒザの剥離骨折が判明。11か月間もレースから遠ざかることとなった。それでも休養中にめきめき成長。矢野調教師の定年に伴い、鹿戸ステーブルに移籍して再スタートする。

「4歳夏の1000万下(転厩緒戦の支笏湖特別を優勝)から、重賞ウイナーになるまでがあっという間。札幌日経オープン(2着)に続き、オクトーバーS(2着)でもハナ差の接戦を演じられ、能力に自信を深めましたよ。それにしても、こんなにうまくいっていいのかって、信じられない気分でしたね。厩舎を立ち上げた直後にも、エフティマイア(桜花賞2着、オークス2着)がもたらしてくれた貴重な経験があり、重賞での好結果につながったように思います」

 53キロのハンデに恵まれたとはいえ、アルゼンチン共和国杯は1馬身半差の完勝。5番手をリズム良く追走し、息の長い末脚を繰り出した。プリンシパルS以来の騎乗となった蛯名正義騎手も、驚きの表情を浮かべる。
「以前は芝での瞬発力が足りないと感じていたのに、別馬のように力を付けている。ずいぶん真面目になり、レースが上手になったよ。東京の長い直線もぴったり」

 ますます勢いに乗り、ジャパンCを制覇。スローペースを完璧に折り合い、追い出しを待つ余裕があった。ラストの伸びも目を見張るもの。単勝41・0倍の低評価に甘んじてはいたが、堂々と押し切る強い内容である。初めてコンビを組んだミルコ・デムーロ騎手は、こう喜びを爆発させた。

「最高の気分。日本ダービーを勝った時とは違ったうれしさがある。ずっとジャパンCの制覇を夢みていたからね。ダービー馬3頭(ディープスカイ、ウオッカ、メイショウサムソン)が相手でも、能力を信頼していた。蛯名さんの馬(マツリダゴッホ)がいい状態みたいだし、上手なポジション取りを生かして、マークして進めようと、レース前に先生とも打ち合わせていたんだ。外枠からのスタートを懸念していたけど、スローに流れ、狙った場所に収まることができた。調教でも他馬と併せるとファイトを燃やしてくれる。フィニッシュまでしっかり伸びてくれたよ」

 有馬記念(5着)、阪神大賞典(4着)と善戦。天皇賞・春は14着に大敗したが、宝塚記念で5着に浮上し、底力をアピールする。得意の東京に戻り、天皇賞・秋を2着に健闘。ただし、ジャパンC(13着)を走り終え、左前脚に屈腱炎を発症してしまう。惜しまれつつターを去った。

 決して良血の繁殖に恵まれなかったなか、モーリス(安田記念、マイルCS、香港マイル、チャンピオンズマイル、天皇賞・秋、香港C)、ゴールドアクター(有馬記念)をはじめ、コンスタントにタイトルウイナーを輩出した。2023年シーズンで種牡馬を引退したが、サイアーラインは順調に発展中。新たな演技派の登場を楽しみに待っている。