サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
スマイルジャック
【2008年 スプリングステークス】笑顔で走り切ったビクトリーロード
息長く重賞戦線で上位を賑わせたスマイルジャック。JRAで48戦を消化した後、地方の南関東へ移籍。9歳になるまで、さらに10戦を戦った。
ブライアンズタイムが送った傑作であり、ダービーを制したタニノギムレットの産駒。歴史的な名牝、ウオッカの父として知られるものの、牡では堂々の格となる。地味なファミリーながら、サンデーサイレンスの肌(母シーセモアは1勝)。日本競馬を一変させた優秀なサイアーの遺伝子を受け継ぎ、早くから頭角を現す。
2歳9月の新潟(芝1600m)で鮮やかに新馬勝ちを収める。芙蓉S(ハナ差2着)、いちょうS(クビ差2着)、東京スポーツ杯2歳S(3着)、若竹賞(3着)と、きさらぎ賞(2着)で賞金加算を果たす以前も、同世代のエリートたちと接戦を演じていた。
スプリングSでは6番人気(単勝14・1倍)に甘んじていたが、みごと重賞制覇がかなう。好スタートを決め、2番手をキープ。淀みない流れのなか、ロスなくインを立ち回り、最後まで粘り強く踏み止まった。前走からコンビを組んでいた小牧太騎手も破顔一笑。こう健闘を称える。
「ハミがかりの良い馬で、前回はそろっと乗ったのに引っかかりましたが、前残りの傾向が強い馬場。喧嘩せず、前目で競馬をしようと思っていたんです。まだ馬が若く、ハミをきつく取ったり、ふわふわと物見をしたり、未完成な部分が残されていますが、追ってからの反応が変わりましたね。最後は後続にクビ差まで迫られたとはいえ、負ける気がしなかった。すばらしい能力の持ち主です」
晴れてクラシックへ駒を進める。皐月賞は9着に敗退。しかし、ダービーでは12番人気(単勝49・2倍)の低評価を覆し、最後までしっかりと脚を伸ばす。見どころたっぷりの2着だった。
ただし、秋シーズンは折り合いの難しさに邪魔され、菊花賞(16着)、マイルCS(11着)とG1の壁に跳ね返される。4歳になって、東京新聞杯を3着、マイラーズCも3着。安田記念(9着)は不利に泣いた結果だった。
関屋記念では、後方でじっくり脚をためることに成功。ラスト3ハロンは32秒5の圧倒的な決め手を駆使し、2つ目のタイトルに手が届いた。それでも、なかなか流れが噛み合わない。六甲Sを貫録勝ちし、安田記念も3着に好走しながら、重賞では連敗を重ねてしまう。6歳シーズンも、3年連続して東京新聞杯から始動。地力の違いでハナ差だけ振り切り、久々に歓喜の瞬間を迎えた。
この年の安田記念でも3着。出遅れを克服しての好走であり、価値ある銅メダルだった。これを境に成績は下降していったが、7歳にして2着した京成杯AHをはじめ、思い出に残るパフォーマンスは多々。ファンに愛される名脇役だった。