サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

アドマイヤマックス

【2004年 富士ステークス】名峰に捧げるマックスの瞬発力

 良血の繁殖に恵まれないなかでも、種牡馬入り後はアドマイヤコスモス(福島記念)、メイショウマシュウ(根岸S)、モンストール(新潟2歳S)、ショウナンアポロン(マーチS)、そして、ケイティブレイブ (帝王賞、川崎記念、JBCクラシックをはじめ、重賞を10勝)らを送り出しているアドマイヤマックス。数々の名馬を手がけた橋田満調教師にとっても、忘れられない一頭である。

「サンデーサイレンスの後継ながら、古馬になって四角い体型となり、スプリント色が強まりました。産駒たちもピッチ走法が特徴ですが、フォームに上下動が少ないので推進力をロスしない。心肺機能も優秀でしたので、幅広い分野で活躍しています。競走成績が物足りなく思えるほど、ポテンシャルは非凡でしたね」

 母ダイナシュート(その父ノーザンテースト)は七夕賞の覇者。繁殖成績も優秀であり、同馬の全姉にマストビーラヴド(桜花賞やNHKマイルCを制したラインクラフトや、プロキオンSに勝ったアドマイヤロイヤルの母)、ホーネットピアス(桜花賞3着)らがいる。セレクトセール(当歳)にて7000万円で落札された。

 2歳9月に栗東入りした当初より、垢抜けた好馬体が光り、調教の反応も上々。10月の京都(芝1600m)で一気の差し切りを決め、楽々と新馬勝ち。続く東京スポーツ杯2歳Sも大外を突き抜け、後続に2馬身半差の完勝だった。一躍、クラシック候補に踊り出たものの、ラジオたんぱ杯2歳S(3着)で左ヒザを剥離骨折。セントライト記念を2着し、菊花賞へ駒を進めたが、距離の壁に泣いて11着に終わる。京阪杯(3着)では再び骨折を発症してしまった。

 休養を経て、ぐんとボリュームアップ。スピードやパワーが際立ってきた。陣営もマイル以下が最適と判断。安田記念(2着)に進む。久々に加え、レコードタイムでの決着となったなか、わずかクビ差の惜敗だった。

 関屋記念(3着)、セントウルS(4着)、スプリンターズS(3着)、香港マイル(4着)と健闘しながら、あと一歩でタイトルには手が届かない。9か月間、しっかりと態勢を整えたうえ、5歳秋に勝負をかけた。

 ポートアイランドSは折り合いを欠き、4着に敗れてしまう。だが、ひと叩きされ、状態は一変。単勝2・3倍の1番人気を背負い、富士Sに臨んだ。ついに3年ぶりの勝利。地力の違いを誇示する。

「調教で格段の動きを見せ、いよいよ充実してきた手応えがありましたよ。でも、この馬の場合、相手関係よりも、自分のポテンシャルをスムーズに発揮できるかどうかがポイント。勝たなければならなかったオープン特別を取りこぼしたように、ースにいって乗り難しいところがありましたからね。東京はのびのびと走れる舞台。無事に賞金加算がかない、希望のローテーションを組めるようになったのが一番の収穫です」

 ところが、なかなか脚の使いどころが噛み合わず、4戦続けて不完全燃焼。ただし、阪急杯では前残りの展開を跳ね除け、コンマ1秒差の4着に追い込んでいた。陣営は調整に工夫をこらし、プール調教を取り入れて心肺機能の維持に努めたうえ、一段と追い切りをハードな内容に切り替える。その効果が高松宮記念で表れた。しっかりと末脚を伸ばし、2馬身半差の完勝を収める。

「調教で跨った感触からも、状態は過去最高に思えた。スタートが決まったし、ちょうどいい中団で運べた。大外枠を引いたけれど、むしろプラスに生かせたよ。馬場のいいところを走れ、終始、スムーズだったからね。それにしても、直線は切れに切れた。自慢の瞬発力をG1で駆使させることができ、こんなうれしいことはない」
 と、勝利に導いた武豊騎手は、満面の笑みを浮かべた。

 以降も1400m以上の3戦で期待に反したとはいえ、スプリンターズSも3着に好走。香港スプリント(11着)を走り終えると、惜しまれつつターフを去った。

 究極の決め手を炸裂させ、スプリント王の称号をつかみ取ったアドマイヤマックス。サンデーサイレンスの全盛期にあって、個性的な輝きを放った名馬といえる。