サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
スギノエンデバー
【2012年 北九州記念】炎夏を切り裂く一瞬の決め脚
2歳8月のデビュー戦から、8歳3月に迎えたラストラン(高松宮記念を15着)まで、全58戦(6勝)を息長く駆け抜けたスギノエンデバー。あと一歩で勝ち切れないもどかしさが付きまとった競走生活だった反面、個性的なキャラクターは多くのファンに愛された。
長年に亘って日本の短距離界を支えたサクラバクシンオーの産駒。母シャイニングピアス(その父ブライアンズタイム)はダートで3勝をマークした。祖母のフォーシングビッドがG3の勝ち馬であり、ダート9ハロンのG1(ジョンAモリスH、ゴーフォーワンドS)での2着も2走ある。
2歳8月に小倉の新馬(芝1200m)をあっさり差し切り、早くからスプリントへの高い適性を示したスギノエンデバー。それ以降、26人ものジョッキーが跨ることになるのだが、記念すべき初勝利を収めた福永祐一騎手は、こう非凡な才能を称えた。
「調教の段階からスピードが違った。折り合いを重視したレース運びをして、うまく終いを伸ばせたね」
出遅れながら、小倉2歳Sを3着。すずらん賞(2着)は3コーナーで躓く不利があっての結果だった。6戦目のつわぶき賞を逃げ切り、順当に2勝目。脚の使いどころに難しさがあり、成績は上下動を繰り返したが、ファルコンSで2着に食い込んだのをはじめ、オパールS(2着)、ラピスラズリS(3着)など、3歳時もオープンで活躍する。
淀短距離S(2着)、春雷S(3着)も僅差の惜敗。1000万クラスに降級後に2走足踏みしたが、佐世保特別では鋭く大外を突き抜け、小倉コースとの相性の良さを証明した。会心のパフォーマンスに、鞍上の和田竜二騎手も満面の笑みを浮かべる。
「前が飛ばしてくれ、うまくエネルギーを温存できた。一瞬しか持続しないけれど、すばらしい切れを持っているからね。時計が速いきれいな馬場が合っている」
勢いに乗って、北九州記念に格上挑戦。2ハロン目から10秒1、10秒5のハイラップが刻まれるなか、じっくり後方に控えた。楽な手応えで直線に向き、馬群の外へ進路を切り替えると、鮮やかな逆転劇が始まる。熾烈な2着争いを尻目に突き抜け、1馬身差の完勝。これが初騎乗だった北村友一騎手も、同馬の長所は十分に把握していた。
「返し馬でも状態の良さが伝わってきました。人気(単勝14・4倍)以上にやれる自信がありましたよ。追い出した時点で、瞬時の脚に光るものがあり、これなら突き抜けると確信。思い描いた通りです」
4歳暮れには北村騎手とのコンビで尾張Sにも優勝(同着)。だが、鞍馬S(2着)、京阪杯(3着)、春雷S(2着)などで確かな才能を垣間見せながら、なかなか展開や追い出しのタイミングが合致しなかった。
それでも、7歳にして鞍馬Sで勝ち星を追加。晩年になっても、常に一発の魅力があふれていた。手にしたタイトルは1つだけだったとはいえ、いぶし銀のパフォーマンスが忘れられない。