サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

スワーヴリチャード

【2017年 アルゼンチン共和国杯】力強く進撃する自由奔放な支配者

 セレクトセール(当歳)にて1億5500万円もの高額で購買されたスワーヴリチャード。有馬記念やドバイシーマクラシックを制したハーツクライが父。母ピラミマ(その父アンブライドルズソング)はJRAで未勝利に終わったが、祖母キャリアコレクションが米G2を2勝したうえ、BCジュベナイルフィリーズなどG1での2着が2回ある。同馬の姉兄にナンヨーカノン(4勝)、バンドワゴン(4勝、きさらぎ賞2着)、エマノン(4勝)ら。半妹のルナステラ(3勝)、ルナシオン(3勝)も、非凡な才能を垣間見せている。

「血統背景だけでなく、バランスがすばらしい。大型に育っても、とても伸びやかでした。ノーザンファーム空港での育成当時から、体力的に抜けていて。少しわがままなところはありますが、適度な前向きさを保ち、2歳7月の入厩後も無理なく動けましたよ。心肺機能は相当なものです。自ずと力を出せる態勢に。スケールの違いをひしひしと感じていました」
 と、庄野靖志調教師は若駒当時を振り返る。

 9月の阪神(芝2000m)でデビュー。出遅れながら、ハナ差の2着に猛追した。続く同条件を順当勝ち。東京スポーツ杯2歳Sはクビ差の2着だったといっても、後方の位置取りや仕掛けのタイミングが響いた結果である。ラスト3ハロンはメンバー中で最速(33秒6)。大外からいったん先頭に立つシーンがあった。共同通信杯では直線の坂を登っても追い出しを待つ余裕があり、一瞬にして2馬身半も差を広げる。

「先々を見据えてローテーションを組んできたなかでも、理想的なレースができました。精神面に落ち着きが出て、一戦ごと競馬が上手に。ゲートがワンテンポ合わないのが課題だったとはいえ、促してポジションを取りにいってもリラックスでき、馬群で脚をためられましたからね。即座にギアが上がりますし、トップスピードの絶対値で勝負が可能。追ってもたれる若さも、改善に向かっていました」

 終始、右手前のままだった皐月賞で6着に敗れたものの、広い東京なら安定して瞬発力を生かせる。ダービーを2着し、将来に夢をつないだ。

「あの時点ではピークの状態で大目標に送り出せました。ただ、依然として疲れが残りやすい面があり、ずいぶん気を遣いましたよ。その後の休養中はNF空港で入念に手をかけてもらい、緩さが解消し、き甲も抜け、大人っぽいルックスになったうえ、見違えるほど中身が充実。やんちゃな面も薄れ、調整が容易になりました。それでも、先々を見据え、基礎を固める段階。時計が出すぎてしまうくらいですので、どこまで必要なのかを慎重に見極めて、トレーニングの量、質を向上させるように配慮しましたね」

アルゼンチン共和国杯より戦列に復帰。好位でスムーズに折り合い、直線へ向いても追い出しを待つ余裕があった。力強く馬群を割って勝負を決め、後は流して2馬身半の差。完勝を収める。

「プラス10キロの体重は想定通り。ハミをトライアビットに替えた効果があり、ジョッキー(ミルコ・デムーロ騎手)も稽古からコンタクトが取れていました。ゲートをうまく出たあたりは春当時とは違いますし、ロスなく脚をためられました。古馬とは初対戦。3歳にして56キロのハンデを課せられ、不安がなかったわけではありませんが、馬の力を信じていましたよ」

 有馬記念(4着)はペースが流れず、3コーナーから外目を追いっぱなしになる厳しい展開。直線で左手前を出せなかったとはいえ、確かな能力を示している。

 翌春は金鯱賞を快勝。大阪杯では外枠(15番)を引いたうえ、スタートで出遅れる誤算があった。前半は後方2番手に置かれる。しかも、1000m通過が61秒1のスローペース。そこでデムーロ騎手は大胆なロングスパートを決断する。一気に動いて先頭へ。それでも、手応えには余裕があった。手前もきちんと替わり、後続の追撃を退ける。

「念願のG1制覇を果たせ、それは感激しましたね。背が伸び、骨格にふさわしい筋肉も付いて、古馬らしく、牡馬らしく変貌。順調に操縦性を高めているだけに、器用さが求められる内回りも克服は可能だと思っていました」

 安田記念は3着に惜敗。スタートの遅さに加え、他馬にぶつけられ、天皇賞・秋(10着)こそ不完全燃焼に終わったが、ジャパンCで3着に巻き返す。

 中山記念(4着)、ドバイシーマクラシック(3着)、宝塚記念(3着)、天皇賞・秋(7着)と、なかなか勝ち切れなかったものの、5歳時のジャパンCでは力強い支配者との意味があるリチャードの名にふさわしく、堂々と王座に君臨する。手綱を託されたオイシン・マーフィー騎手は、こう晴れやかな笑みを浮かべた。

「世界的に権威がある一戦を勝て、夢がかないました。思い描いたポジション。手応えも絶好でしたので、迷わず開いたインを突けましたよ。厩舎がしっかり仕上げてくれたおかげです」

 有馬記念(12着)がラストランとなる。ラスト4ハロン付近になり、マーフィー騎手は異変を察知して流したままでゴール。志半ばながら、右飛節に痛みを訴えたため、社台スタリオンステーションで種牡馬入りすることとなった。レガレイラ(ホープフルS、有馬記念)、アーバンシック(菊花賞)を送り出し、評価は上がる一方。新たな大物の誕生が楽しみでならない。