サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ホッコータルマエ

【2014年 川崎記念】静かにファイトを燃やす堅固な王者

 3歳1月に迎えたデビュー戦(京都のダート1400m)は11着と見せ場なく終わったホッコータルマエ。ただし、2戦目で一変。小倉のダート1700mを勝ち上がった。500万クラスは3戦で卒業する。

 西浦勝一調教師は、こう若駒時代を振り返る。
「矢部幸一オーナー(2013年11月に逝去。以降は子息の道晃氏が所有)と一緒に、セリ(HBAセレクションセール・1歳にて1500万円で落札)で見たときのことが忘れられないね。幸運な巡り会い。トモの張りが良く、しっかりした馬格。それでいてバランスも整い、品があったよ。ひと目で気に入った。ただし、あんなに奥があるなんて、とても想像できなかったなぁ。2歳7月に入厩したころは幼さが前面に出ていたね。ゲート試験に受かり、函館競馬場へ移動させたところで、脚元に疲れが出てしまって。ファンタストクラブでしっかり立て直したのが成長につながった。当初の動きは目立たなかったし、スタートも上手くはなかったけれど、調教を積むごとにたくましさを増していく。一戦ごとにレース運びも安定してきた」

 様々なカテゴリーに一流馬を輩出し、砂巧者も多いキングカメハメハの産駒。母マダムチェロキー(その父チェロキーラン)はダートの中距離で4勝をマークした。アメリカで繁栄しているファミリーであり、近親に重賞2勝のプリティーパーフェクトなどがいる。

 4月の阪神(ダート1800m)では2着に6馬身差を付ける圧勝劇を演じた。端午S(クビ+ハナ差の3着)に続き、青梅特別を順当勝ち。ジャパンダートダービー(5着)にも挑戦する。レパードSは、ハナ差の辛勝だったが、息の入らないペースを早め先頭から押し切る強い内容だった。

「左手前に替えるのが苦手だったり、まだ粗削りな段階。さらなるパワーアップを見込んでいたよ。自分で体をつくってしまうから、調整に苦労はない。スイッチのオン・オフも巧みで、装鞍までリラックスしているのに、パドックで気合いが入るのが心強かった」

 歴戦の古馬を相手に、みやこSをクビ+クビ差の3着。デビューして1年が経過していないのにもかかわらず、ジャパンCダートでも3着に健闘した。フェアウェルS(2着)、東海S(3着)と勝ち切れなかったものの、佐賀記念では2つのタイトルを奪取する。

 以降は名古屋大賞典、アンタレスS、かしわ記念と破竹の勢いで勝利を飾った。さらに、帝王賞ではチャンピオンの座を固める。ゆったりしたペースの決め手比べとなっても、危なげなく差し切った。

「順調に賞金加算がかない、目標を定めて仕上げられるようになったのが大きい。すっかり軌道に乗ったよ。使われていいタイプだけに、筋肉に張りが出て、どんどんたくましくなっていった」
 南部杯は2着に敗れたが、秋もJBCクラシックでビッグタイトルを手にした。4歳時のJCダートも3着に惜敗したとはいえ、東京大賞典で復権を果たす。

 川崎競馬場でも無類の強さを誇示した同馬。川崎記念に臨むと、2番手から余裕の手応えで抜け出し、単勝1・1倍の圧倒的な支持に応えた。

「自分でオンオフを切り替え、普段は無駄な力を使わない。疲れが癒えるのも早いんだ。次の目標に向け、スムーズに仕上げていくことができた。一段と集中力も高まり、ゲートでは前を見据えて扉が開くのをじっと待っている。それでいて、いざとなれば旺盛な闘争心を燃やすんだ。教えてできることじゃない」

 フェブラリーSは半馬身差の2着だったが、最速タイの上がり(3ハロン35秒1)を駆使。そして、勇躍、ドバイワールドC(16着)へと旅立つ。

「異変に気付いたのはゲートインとなってから。しきりに嫌がる素振りを見せた。あんなことは初めてだったし、思いのほか、環境の変化が堪えたのかもしれない。苦い経験をきちんと受け止め、いい状態で再チャレンジできるよう、精一杯の手を施したよ」

 5歳暮れにはチャンピオンズCを制し、みごとに復活を遂げる。すっと2番手をキープ。スムーズに流れに乗り、手応え十分に直線に向くと、あとはスパートのタイミングを計るだけだった。堂々とトップに踊り出た。

「久々となったJBCクラシック(4着)でも、生き生きとした雰囲気が戻っていたし、勝ちにいく競馬はできた。その後の調教では前向きさを増し、筋肉に張りも出て、またひと皮むけた手応えがあった。中央のG1に勝てたのは、テイエムオーシャンやカワカミプリンセス以来。牡馬では初めてだったから、感激はひとしおだったね。レースが大好きで、喜んで走っているように映る。他のトップクラスと比べても、そこが違う」

 東京大賞典も4馬身差で楽勝。川崎記念を勝って、再びドバイWCへ。果敢に逃げ、5着を確保した。帰国初戦の帝王賞も、人気(単勝1・5倍)通りに優勝。以降のG1を3連敗したが、いずれも差はわずかだった。

 川崎記念の3連覇を達成し、7歳時もドバイに挑んだ。世界の壁を痛感させられる9着。それでも、帝王賞(4着)、南部杯(3着)、JBCクラシック(2着)と、衰えなど見せずに存在感を堅持する。チャンピオンズCの直前に歩様が乱れたため、予定を早めて引退が決定したが、全39戦(17勝)してG1を10勝。偉大な足跡を残した。

 NARファストシーズンサイアーに輝き、種牡馬としても上々のスタートを切る。レディバグ(スパーキングレディーC)、メイショウフンジン(佐賀記念)、ブリッツファング(兵庫チャンピオンシップ)、ゴライコウ(JBC2歳優駿)、ブライアンセンス(マーチS)をはじめ、注目株は多々。我慢強く、成長力に富んだ遺伝子を受け継いでいるだけに、父の域に迫る大物が登場しても不思議はない。