サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ノボリディアーナ
【2015年 府中牝馬ステークス】輝かしき栄光へ、銀の弓矢を携えて
クロフネ(JCダート、NHKマイルC)、エイシンデピュティ(宝塚記念)、アドマイヤジュピタ(天皇賞・春)、レジネッタ(桜花賞)、サウンドトゥルー(チャンピオンズC、東京大賞典、JBCクラシック)など、様々なカテゴリーにトップホースを送り出しているフレンチデピュティ。ノボリディアーナも非凡な才能を垣間見せた一頭である。
母スターリーロマンス(その父サンデーサイレンス、4勝)の姉兄にシャイニンレーサー(マーメイドS)、フジキセキ(朝日杯3歳S)などがいる豪華な一族であり、同馬はクリスティロマンス(3勝)、ダノンミル(3勝、地方5勝)らの半妹にあたる。
松永昌博調教師は、こう若駒当時を振り返る。
「優秀な血統らしく、初めて見た1歳時も垢抜けた雰囲気だったよ。社台ファームで順調に育成が進み、2歳の8月末には入厩。馬なりでも軽々と動け、もともと大きな期待を寄せていた」
2歳10月、京都(芝1400m)を鮮やかに新馬勝ち。3コーナーで挟まる不利がありながら、決め手の違いで跳ね除ける中身が濃い内容だった。
しかし、いきなり速い上がりを駆使した反動は大きく、予定していたファンタジーSの直前に歩様が乱れて出走取り消し。2戦を消化したものの、見せ場はつくれず、翌春まで休養した。これをきっかけに一変し、京都の芝1600m、白百合Sとイメージを一新させる先行策で押し切る。
「まだいかにも若く、繊細さだった。テンションを上げないよう、控えめな攻めに終始せざるを得なくて。それに、すっと前へ行けるスピードがある反面、その強みも後に災いし、なかなか柔軟なレース運びを覚えさせることができなかった」
しばらくは重賞戦線で苦戦が続く。1000万下への降級3戦目に西海賞を勝利したが、ゲート内で平静を保てないことが多くなった。ようやく5勝目をつかんだのは、5歳6月の垂水S。小倉記念(11着)こそ完全なオーバーペースに泣いたが、小倉日経オープン(2着)では2番手で我慢が利き、手応え以上の渋太い伸び。脚質転換のきっかけとなる。
11番人気の低評価に甘んじていた府中牝馬S。中団に控えたが、流れに乗って折り合う。直線は大外に持ち出し、鋭い末脚を繰り出した。しかも、迫られて、なお突き放すロングスパート。熾烈な2着争いを尻目に、コンマ2秒差を付ける完勝だった。
「調教でも乗りやすくなり、これまでより融通が利いたレースができそうな予感はあったよ。ちょっと出遅れたけど、結果にうまく脚をためられた。長距離輸送があっても落ち着いていたし、ずいぶん大人になったなぁ。肉体面もぐっと充実。飼い葉を残さずに食べてくれ、しっかり鍛えらたからね」
ついに大きな獲物を手にした美しきディアーナ(ローマ神話に登場する狩りの女神、銀の弓を手にした姿で描かれる)。エリザベス女王杯(12着)、ターコイズS(7着)、中山牝馬S(13着)と、以降は展開が噛み合わなかったが、念願のタイトルを手にしたことで、価値をぐんと高めた。社台ファームにて繁殖入り。いまのところJRAで勝利した産駒は登場していないが、優秀な血が騒ぎ出すのはこれからだろう。