サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ソルヴェイグ

【2016年 函館スプリントステークス】波乱を巻き起こす黄金のたてがみ

 社台ファームで入念な乗り込みを消化したうえ、2歳10月に栗東へ移動したソルヴェイグ。当初より反応の良さが目立ち、馬なりで好タイムをマークできた。京都の芝1400mでデビュー。順当に早め先頭から押し切る。

 G1サラブレッドクラブにて総額2000万円で募集されたシンデレラガール。サンデーサイレンスの後継ながら、2年連続してJRA賞・最優秀短距離馬に選出されたダイワメジャーが父である。母アスドゥクール(その父ジャングルポケット、4勝)だけでなく、叔父にあたるソルジャーズソング(シルクロードSを2着、高松宮記念3着)、エールブリーズ(京王杯SC3着、ファルコンS3着)も、鮫島一歩調教師が手がけていた。若駒当時より大きな夢を託していたという。

「コンスタントに走る優秀なファミリー。もともとバランスがすばらしかったですし、まっすぐ育ってくれました。激しい気性に邪魔されなければ、母たちはもっとやれたはず。そんななか、この仔は一番、落ち着きがありましたからね」

 阪神の芝1200mでは、中団に控えながら3着に追い込んだ。京都の芝1400mで3着、5着と足踏みしたものの、息の入らない流れのなか、インを巧みに立ち回っていた。苦い経験をプラスに転じさせ、フィリーズレビューを快勝。逃げ馬を射程に入れて脚をため、好位から鮮やかに突き抜けた。

「乗り手に従順。仕上げも楽ですが、体質面には繊細さが残っていました。負荷をかけすぎないように配慮し、状態の維持に努めていたのに。低評価(単勝27・2倍)を覆すパフォーマンスに驚きましたよ。一族にとって念願だった重賞に手が届き、喜びは格別。能力を再認識しました」

 桜花賞(17着)は前が詰まって追えずに終わったもの。余力は十分あったが、無理せずにリフレッシュを挟んだことが、さらなる栄光につながった。函館スプリントSをコースレコードで優勝。わずかハナ差の辛勝ではあったが、2番手から人気馬を競り落とし、ゴール前でも渋太く差し返す根性を見せた。

「ベストは1400mと見ていましたし、距離を縮めるとなれば、後戻りできないリスクもあったのですが、性格的に過剰な力みに悩まされる心配はないと判断。スタートを決め、速い馬場へも対応できました。古馬との斤量差があったとはいえ、持ち前のスピードをフルに生かすことができましたね。あの時点でも、中身がしっかりしてくるのは先と見ていました」

 キーンランドC(4着)を経て、スプリンターズSではアタマ+クビ差の3着に健闘。翌春はシルクロードS(6着)、高松宮記念(9着)と結果を残せなかったが、ヴィクトリアマイルでも5着に食い込む。

 キーンランドCをクビ差の2着しながら、スプリンターズSは無念の除外。オパールSに順当勝ちしたとはいえ、徐々に本来の懸命さが薄らいでしまう。京阪杯(9着)、京都牝馬S(11着)、ダービー卿CT(14着)と歩んだところで、早すぎる引退が決まった。

 黄金のたてがみをなびかせ、美しくターフを舞ったソルヴェイグ(イプセンの戯曲「ペールギュント」に登場する金髪の少女)。全弟妹にあたるドロウアカード(2勝、フラワーC3着)、デクレアラー(3勝)も非凡な才能を垣間見せているだけに、繁殖としても魅力はたっぷり。まっすぐな性格や非凡な身体能力は、次世代へと受け継がれていく。