サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ボールライトニング
【2015年 京王杯2歳ステークス】火の玉と化した若き天才
好位追走から持ったままで抜け出し、2015年の京王杯2歳Sを快勝したボールライトニング。熾烈な2着争いが繰り広げられたなか、決定的なコンマ2秒差だった。
想像以上のパフォーマンスに、宮本博調教師はこう笑みを浮かべた。
「大外枠を引き、これは試練かと思っていたのに。しかも、極端に遅いペースでした。すっとポジションを取れたうえ、きちんとコントロールが利く。レースセンスが抜群です。辛口で知られるジョッキー(蛯名正義騎手)も、ほめまくっていましたよ。能力が高い馬の仕上げに関して、逆にこちらが教えられたように感じます。初の長距離輸送だったこともあり、レース直前は坂路で58秒のタイムしかマークしていなかったのですが、きっちり結果を出せました」
父は優秀な勝ち上がり率を誇るダイワメジャー。サンデーサイレンスの後継ながら、2年連続してJRA賞・最優秀短距離馬に選出されたスピード色が強い遺伝子だけに、早期から頭角を現すのはもちろん、メジャーエンブレム、アドマイヤマーズ、レシステンシアら、8頭のG1ウイナーを輩出している。
母デフィニット(その父デヒア)は1勝したのみだが、同馬の半姉が宮本師に初のタイトル(小倉2歳S)をもたらしたデグラーティア。希少な栃木産とはいえ、名門・那須野牧場で生まれている。
「デグラーティアも重賞まで3連勝。ヒザの骨折に見舞われなければ、もっと走れたはずです。ひとつ上の姉にあたるトゥルーストーリー(1勝)も管理して、思い入れが深い血統。母にとっては8年ぶりの牡馬でしたので、それは期待が大きかった。三石の前田ファームに移動して育成された1歳時も、5、6回は見に行きましたね。骨瘤が出たりもしましたが、想像以上に芯がしっかりしていて。ノーザンファーム空港で乗り込まれ、どんどんたくましさを増しました」
2歳9月の入厩後もスムーズに態勢が整い、翌月の京都、芝1400mを新馬勝ち。余力を残しながらゴールに向けて加速し、ラスト1ハロンは11秒3の鋭さだった。
「この父らしく、牧場時代は枯葉が舞うだけで敏感に反応。心配していたのは気性面でした。先々を考え、太めでデビュー。それなのに、文句なしの優等生なのに驚きましたよ。オン・オフの切り替えが上手。まるですべきことがわかっているかのような賢さです。単走なら15-15をきっちり守れ、併せても相手なりにラップを刻める。競馬の当日も平然としていましたしね」
だが、朝日杯FS(11着)、アーリントンC(8着)、ニュージーランドT(12着)と歩んだところで右前に骨折を発症。オーロC(5着)、リゲルS(4着)で復調の兆しを見せながら、以降も歩様の硬さに悩まされた。
ダートに目を向けても、大崩れしなかったものの、6歳時に飛鳥Sを差し切るまで、結局、17連敗を喫する。さらに8連敗を重ね、引退が決まった。JRA馬事公苑の乗馬に転身するととなる。
輝きを放った期間は短かったけれど、ボールライトニングとの名の通り「火の玉」と化し、一気に栄光のゴールへと突き進んだ天才肌。ほろ苦い後期の競走生活を経ても、トレーナーの目には鮮烈なインパクトが焼き付いたままである。