サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ソリタリーキング

【2012年 日本テレビ盃】名門の系譜を豪華に発展させた気高きキング

 数々のスターホースを輩出した石坂正厩舎にあっても、宝物のような繁殖だったのがスカーレットレディ(父サンデーサイレンス)。トップサイアーのキングカメハメハが配され、ソリタリーキングは誕生した。半兄にサカラート(重賞を4勝)、ヴァーミリアン(G1の9勝を含む重賞13勝)、キングスエンブレム(シリウスS)らがいるだけに、サンデーサラブレッドクラブでの募集価格は、総額1億6000万円もの高額に設定された。

「ヴァーミリアンやエンブレムは、能力が高いからこそ芝も走った。ただ、クラシックにこだわり、遠回りした思いもあるからね。この仔は絶対、ダートで下ろす」
 と、入厩前から石坂調教師は宣言していた。

 2歳12月、阪神のダート1800mに初登場すると、とても届きそうもない位置から直線一気を決めた。続く500万下(京都のダート1800m)も楽な手応えで勝ち上がる。ヒヤシンスSでは、完成度で勝るバーディバーディの2着に敗れたが、ここでも末脚はきらりと光り、着差はわずかクビだった。

 担当した和田直人調教助手は、こう若駒当時を振り返る。
「明らかに乗り込み量が足りなかったのに、初戦から衝撃的な内容。さすがにこの血だと感心させられましたよ。武豊騎手は、『上がっていくときの脚にヴァーミリアンに共通するものがある』って。外見はまったく違うのですが、性格は似ていて、調教で動かないあたりも一緒です。競馬で素直ですし、どのポジションでも折り合いが付く。ただ、まだまだ幼く、スプリングS(14着)で体力が限界に。それ以降は運にも恵まれず、なかなかリズムに乗れませんでした」

 出負けしたうえ、前が詰まったあおぎりS(4着)を経て、鷹取特別を勝ち上がったものの、レパードS(3着)では左前を落鉄してしまう。歩様が乱れ、5か月間の休養へ。4歳前半も体調が本物でなく、2戦を消化しただけで放牧へ出た。

「桃山S(2着)のころになり、ようやく調子を取り戻してきました。ところが、上賀茂S(10着)の3コーナーで爪をぶつけてしまったんです」

 裂蹄が癒えるのをゆっくりと待つ間にも体質が強化され、京都の1000万下(ダート1800m)に続き、赤富士Sも勝利。JCダート(8着)へも駒を進めた。

 出遅れが響いた仁川S(8着)、芝に挑んだ大阪杯(12着)と足踏みしたが、ブリリアントSは5馬身差の楽勝。東海Sでは念願のタイトルに手が届く。激しい追い比べをきっちりと抜け出した。

 本格化を物語るパフォーマンスを演じたのが秋緒戦の秋緒戦の日本テレビ盃。すっと3番手に取り付き、余裕の手応えで差し切りを決める。1番人気(単勝1・9倍)にふさわしい安定した立ち回りだった。

「以前とは集中力が違い、自分を見失うことなく、きちんと結果を出してくれるように。トレセンでは他馬が恋しくて落ち着きがなくても、自信をつけてきたのか、パドックでは堂々と振舞います。関東圏へ輸送すると、飼い葉を食べてくれないのですが、減るのを見越して調整すれば大丈夫。安心して仕上げられました」

 続くJBCクラシックは4着。なかなか勝ち切れなかったものの、東海Sは4着、ダイオライト記念も3着、アンタレスSを4着するなど、トップクラスを相手に善戦を重ねる。

「もともと典型的なダート馬とは乗り味が異なり、背中が伸び縮みしますし、砂をがっちりとらえるというよりも滑るように前進するのが特徴。軽い走りはキングスエンブレムに近いのですが、つなぎが立っている兄に対して、こちらは手先も柔軟です。そんななか、ぐっと重厚感も加わって軸がぶれなくなっていました。トモの張りを増し、肉体的にも完成されましたね」

 競走生活のハイライトとなったのがマーキュリーC。好スターが決まり、2番手をキープ。4コーナーからスパートして、早めに先頭へと躍り出る。コンマ2秒の差を付けて悠々とゴールに飛び込んだ。

 結局、これが最後の勝利となったが、6歳以降に重賞での2着が5回。3着も5走あり、そのなかにはJBCクラシック、帝王賞での健闘が光る。

 9歳時のマーキュリーC(7着)まで全44戦を辛抱強く戦い抜いた「孤高な王」。名門の系譜を豪華に発展させた勇者だった。乗馬となって余生を送り、2022年、天国に旅立ってしまったが、英雄譚は後世へと語り継がれていく。