サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
アドマイヤデウス
【2015年 日経新春杯】破格のポテンシャルを誇った幻の帝王
JRA重賞を通算63勝も手にしてきた橋田満調教師。愛着が深い繁殖は数多いが、輝かしい栄光を運んだ一頭にロイヤルカードがいる。
競走成績は未勝利ながら、半弟にアドマイヤホープ(全日本2歳優駿)、アドマイヤフジ(日経新春杯など重賞3勝)、アドマイヤコスモス(福島記念)らがいて、その母アドマイヤラピス(ステイヤーズS2着)を手がけて以来、大切に育ててきたファミリーである。朝日杯FSを制したうえ、ダートで6つもG1の栄光を勝ち取ったアドマイヤドンが配され、誕生したのがアドマイヤデウスだった。
「アドマイヤダンク(5勝、地方3勝)、アドマイヤケルソ(3勝)、アドマイヤドバイ(4勝、きさらぎ賞3着、ラジオNIKKEI賞3着)と、ロイヤルカードの仔は牡に出ればコンスタントに走っています。アドマイヤパンチもサンレイポケット(新潟大賞典)の母となった優秀な血筋。デウスは当歳時よりしっかりした体付きをしていましたし、バランスが整っていましたよ。それに、兄たちと比べても身のこなしが柔らかい。父のイメージとは違い、母父サンデーサイレンスの血が色濃く伝わっています」
と、トレーナーは特長を話してくれる。
6月6日の遅生まれながら、ノーザンファーム早来での育成は順調そのものだった。2歳の5月末にはトレセン近くのNFしがらきへ。9月の入厩後もスムーズに出走態勢が整う。
「前向きな性格で仕上げやすい。気合いが乗りすぎるのを心配していましたが、競馬へいってもムキにならず、秘めたセンスも想像以上でしたね」
京都の芝1800mでデビュー。中盤でペースが緩み、前残りの展開となるなか、大外を3着まで押し上げた。スタートで躓く不利を跳ね除け、続く芝2000mはアタマ差の2着に追い込む。暮れの阪神(芝2000m)を順当に初勝利。梅花賞は3着に敗れたが、放牧を挟んで体に余裕があった。肉体面の強化とともに、自在性を身に付け、あすなろ賞をあっさり抜け出すと、若葉Sも鮮やかに差し切る。ラスト3ハロン(34秒9)は、レースの上がりを1秒0も上回る圧倒的なものだった。
「早い時期から完成度も高かったのですが、一戦ごと着実な進歩がうかがえるのが心強くて。伸びやかなフットワークに加え、折り合いも付き、もっと長めの距離が向く。将来が楽しみでなりませんでした」
皐月賞(9着)、ダービー(7着)と歩んだところで軽い骨折を発症。しかし、7か月ぶりとなった日経新春杯では目を見張る伸び脚(3ハロン33秒8)を駆使した。鮮やかにインを割り、あっさり重賞制覇を果たす。岩田康誠騎手も、破格のポテンシャルを感じ取っていた。
「久々なのに前進気勢があり、ゲートをすっと出てくれ、思ったより前のポジション。自らハミを受けてくれたうえ、以前より落ち着きを増し、精神的に大人になっています。内目で我慢が利き、リズム良く運べました。いまなら、どんなパターンでも競馬ができる。もともと素質を買っていた逸材がいよいよ本格化。可能性は底知れないですよ」
前走がフロックでなかったことを証明したのが日経賞。スローな流れをコーナーから動き、直線で楽々と抜け出す。コンマ3秒差の完勝だった。ただし、天皇賞・春(15着)で再び骨折。秋の王道路線には間に合ったものの、天皇賞・秋(11着)、ジャパンC(16着)、有馬記念(7着)と持ち味を発揮できずに終わった。
京都記念(3着)や阪神大賞典(3着)で復調を示したが、天皇賞・春は9着。以降も京都大賞典(クビ差の2着)、日経賞(3着)などで見せ場をつくりながら、連敗を重ねてしまう。
6歳秋にオーストラリアへ移籍。ところが、調教中の事故に見舞われる。天帝、天主を意味する名の通り、最高の地位が視野に入っていても、願いをかなえることなく、天国に旅立ってしまった。それでも、新春の候を迎えれば、胸弾む青春期の勇姿が多くのファンの脳裏に蘇えってくる。