サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ゼンノロブロイ
【2003年 神戸新聞杯】一気に素質を開花させた若き英雄
父サンデーサイレスの特長をストレートに受け継いで誕生したゼンノロブロイ。セレクトセール(当歳)にて9000万円で落札された。母ローミンレイチェル(その父マイニング)は米G1・バレリーナHをはじめ、重賞3勝をマークした名牝。同馬の半姉にダーリングマイダーリング(G1・フリゼットSを2着、同・メイトロンS2着)、ストレイキャット(タガノエリザベート、キャットコイン、ワンブレスアウェイ、 ロックディスタウンの母)らがいる。
もともと期待が大きかった反面、体質は繊細であり、化骨も遅め。じっくりと仕上げられ、3歳2月にようやくデビューにこぎ着けた。それでも、ポテンシャルの違いを見せ付け、中山の芝1600mを大外一気に突き抜けて新馬勝ちを飾る。続くすみれSは3着に敗れたものの、左トモを落鉄していた。強い調教は施さず、心身を整えることに専念している段階にあっても、山吹賞は2馬身半差の完勝だった。
わずか3戦のキャリアながら、青葉賞も1番人気に推された。好位で折り合いに専念し、手応え十分に直線へ。大きく右へもたれる若さを見せたとはいえ、あっさりと抜け出した。ダービー(2着)でも2番手から長く脚を駆使。勝ったネオユニヴァースとは半馬身差の健闘だった。
秋は神戸新聞杯より始動。ライバルのサクラプレジデント(札幌記念、皐月賞2着)、ネオユニヴァース(クラシック2冠)をマークして運び、絶好の反応で直線へ。ラストの瞬発力は目を見張るものだった。ラスト1ハロンで先頭に躍り出て、2着のサクラプレジデントに3馬身半もの差を広げた。初めて手綱を取ったケント・デザーモ騎手も、こう声を弾ませる。
「エンジンをかける前に、サクラが早めに動いたけれど、あせりはなかったよ。外へ出したら楽々とトップスピードに。すばらしい伸びだったね。トレーナーが菊花賞を目指すといっているんだから、距離もこなせるはず。この馬が同世代に負けるシチュエーションなんて、考えにくいんじゃないかな」
ところが、菊花賞では内に包まれてスムーズさを欠き、4着に敗れる。有馬記念も同厩の先輩にあたるシンボリクリスエスの3着だった。
翌春は日経賞(クビ差の2着)より戦列に復帰。イングランディーレの大逃げが決まった天皇賞・春を2着。宝塚記念でもG1の壁に跳ね返され、4着に終わった。秋緒戦の京都大賞典こそクビ差の2着だったが、得意の東京で快進撃が始まる。出遅れながらも、天皇賞・秋を鮮やかに差し切り、念願のチャンピオンに輝いた。
「しばらくは伸びにもどかしさを感じていたが、いずれトップに立てる器だと信じて、時計的には速くない稽古をあせらず反復。秋になって反応に鋭さが加わり、ようやく心身が噛み合ってきた実感があった。それにしても、素質開花は一気。よくぞここまで育ったと感心するしかなかったね」(藤沢和雄調教師)
3馬身差の圧倒的なパフォーマンスを演じたのがジャパンC。中団で脚をため、余裕の手応えで直線へ向くと、レースのラスト3ハロンをコンマ7秒も凌ぐ上がり(34秒3)で突き抜けた。
「前走でも跨り、この馬の強さは十分にわかっていた。この馬のリズムを守った結果だよ。ずっと楽な手応え。シンボリクリスエスよりレースがしやすく、常にリラックスして走れるのがすばらしい」(オリビエ・ペリエ騎手)
さらに有馬記念もレコードタイムで手中に収める。5歳時は宝塚記念(3着)をステップにイギリスのG1・インターナショナルS(2着)へ。慣れない馬場を克服し、エレクトロキューショニストとクビ差の接戦を演じた。
帰国後も天皇賞・秋(アタマ差の2着)、ジャパンC(レコードで制したアルカセットにコンマ3秒差の3着)と勝ち切れなかったが、常に上位に食い込んだ。唯一、掲示板を外した有馬記念(8着)にしても、「スタートで内の馬にぶつけられた。ゴールを過ぎて躓いたし、脚を傷めた影響」(ケント・デザーモ騎手)である。
ファーストクロップよりサンテミリオン(オークス)、マグニフィカ(ジャパンダートダービー)などを送り出し、種牡馬としても成功したゼンノロブロイ。パワーやスタミナに優れ、大レース向きの底力も魅力。近年はブルードメアサイアーとしても信頼度を高めている。